従業員の相次ぐ自殺を受け、6月から従業員の基本給を約3割引き上げた鴻海科技集団(フォックスコン)傘下の中国電子機器受託生産メーカー、富士康国際(FIH)は6日、深圳工場エリアの考査に合格した生産ライン作業員および班長を対象に、10月1日からさらに66%の昇給を行うと発表した。これを受けて台湾電機電子工業同業工会(電電公会)の焦佑鈞理事長は、「大陸(中国)の低賃金時代は既に終わった」と指摘し、「今後台湾系電子メーカーの撤退が進むことは確実で、業者のインドや東南アジアへの展開に協力する『南進政策』を進める」と語った。7日付工商時報などが報じた。
実質賃金は台湾上回る
過去1週間で2度目となる富士康の賃上げ発表により、同社深圳工場の最低給与は、5月までの900人民元から、原則2,000人民元(約2万7,000円)へと2倍以上に上昇する。さらに同社が支給している食事手当、住宅手当、社会保険料を加えると合計約4,200人民元となり、台湾の最低賃金月額1万7,280台湾元(約4万9,000円)よりも高く、台湾の大卒初任給に迫る額となる。
外資系証券会社よると、富士康深圳工場の現在の従業員数を約45万人とすると、基本給を1,100人民元引き上げることで同社の人件費は四半期当たり約75億台湾元増加する。これは同社の四半期利益約200億台湾元の3分の1に相当する額だ。
富士康は深圳工場以外の生産拠点でも、現地の物価や社会保障規定に基づき賃金調整を検討しており、7月1日に賃上げ発表が見込まれ、さらなる人件費の増大が予想される。
「同業者はやっていけない」
富士康がハイシーズンに入るころに第2段階の賃上げを行うことについて証券会社は「これにより同社は下半期に人手不足の懸念がなくなる」と指摘。その上で「深圳周辺の同業者は事業をやっていけなくなり、既に内陸部への移転を開始している業者はこの動きを加速させ、移転が間に合わない業者は工場閉鎖を検討することになる」との見通しを示した。
また同日緊急対策会議を開いた、中国に進出した台湾企業の全国組織、全国台湾同胞投資企業聯宜会(台企聯)は、「富士康の賃上げは台湾企業のみならず、外資系企業、中国国営企業に大きな衝撃を与える」と予測。台湾企業は速やかに事業構造の転換を図る必要があると危機感を募らせた。
内陸移転も、3~5年で限界
一方、電電公会の焦理事長は、「富士康の賃上げは今後大陸の人件費が上昇し続けることを意味する」と語り、低賃金労働者の獲得のため中国内陸部に進出している台湾企業も「3~5年内に限界に達する」との見通しを示した。
その上で焦理事長は、今後はインドネシア、ベトナム、インドなど東南アジアおよび南アジアの投資リスク検討を強化すると強調。さらに日本企業と提携しての中国展開促進も計画しており、来年日本との交流活動を活発化させると表明した。
ただ、サプライチェーン形成には長い時間が必要なため、「短期間で中国に代わる集積地が出現することは考えにくい」との分析もUBS証券より出ている。
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