液晶パネル最大手、奇美電子(チーメイ・イノルックス)は7日、液晶パネルに関する特許がソニーの液晶テレビなどに不当に使われているとして、同社を相手取り、損害賠償と販売差し止めを求めて米国と中国で提訴したと発表した。訴訟の目的については、ソニーから3月に米国で特許侵害で訴えられたことへの対抗措置との見方のほか、奇美電以外のパネル採用製品を訴訟の対象とすることで、ソニーに奇美電製品の採用拡大を促すのが真の狙いとの観測もある。8日付経済日報などが報じた。
奇美電は7日、米南部のアーカンソー州西部地区連邦地方裁判所と北京市第二中級人民法院でソニーを特許侵害で提訴した。対象製品は、液晶テレビ「ブラビア」、デジタルカメラ「サイバーショット」、およびデジタルフォトフレームなど。損害賠償の請求額などその他詳細は不明だ。
提訴について、奇美電の田正人・副総経理兼法務長は同日、同社はこれまでハイエンドフラットディスプレイ製品の技術革新と研究開発(R&D)に多くのリソースを注ぎ込んでおり、知的財産権、パートナー企業、顧客の権益を全力で保護する方針に沿ったものと強調した。
ライセンス交換で和解も
ただ、鴻海集団がソニーのゲーム機やノートパソコン、液晶テレビなどを組み立て、液晶パネルを奇美電が大量に供給するなど、奇美電とソニーのつながりは強い。このため業界では、奇美電の提訴目的は特許保護や損害賠償金の獲得ではなく、別の戦略的意図に基づくものという見方が多勢を占める。
ある業界関係者は、ソニーが3月に米国際貿易委員会(ITC)に対し、奇美電の前身である群創光電(イノルックス・ディスプレイ)をはじめ数社が特許を侵害したと訴え、液晶テレビなどの米国輸入を差し止めるよう求めたことに対抗して提訴したと指摘。訴訟でソニーと同等の立場に持ち込み、クロスライセンス(相互ライセンス)契約締結での和解を引き出す手段とみている。
このほか、現在ソニーにとって最大の調達先ではない奇美電が、友達光電(AUO)、シャープ、サムスン電子など主要サプライヤーの製品を係争対象にして、同時に訴訟の過程でソニーと太い交渉パイプラインを築いて他社の受注を奪い取る狙いがあるとの予測もある。米国と中国という世界の2大市場を選択した理由もここにあり、奇美電はソニーからの受注拡大に成功すれば、損倍賠償請求額の引き下げ、または請求取り下げを行うとみられている。
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