ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

長栄集団、後継者不在の危機


ニュース 運輸 作成日:2007年8月30日_記事番号:T00002398

長栄集団、後継者不在の危機


 運輸最大手の長栄集団に、後継者不在の危機が持ち上がっている。この6月、後継者に指名されていた三男の張国政副総裁(当時)が、創業者で父親の張栄発総裁との関係不和から辞任。家庭問題から昨年長栄航空(エバー航空)の総経理を辞任した四男の張国イ氏(イは火へんに韋)を含め、これまでに4人の息子と娘婿が職位を追われており、この結果80歳になる張栄発氏が一人で経営を引っ張る局面が続いている。張氏は長栄集団を一手に巨大企業に育てた優秀な事業家だが、ワンマン経営者の権限委譲がいかに難しいかを物語るケースと言えそうだ。経済誌「今週刊」の最新558号が伝えた。
T000023981


 張栄発氏は2004年末、張国政氏をグループの首席副総裁に、張国イ氏を長栄航空総経理に任じることを発表し、その際、「経営から完全に手を引いて彼らに任せる。失敗しても関係ない」と話していたが、言葉通りにはならなかった。

 張国政氏の母親は、張栄発氏が見合いで結婚した張林金枝氏で、昨年後半から足が衰えて車いす生活になった。しかし、張栄発氏は2番目の妻、李玉美氏を気に入っていて、海外出張やお客と会う際は李氏を連れて行き、体の衰えた張林氏に会うことはめったにない。今年の旧正月、張栄発氏は李氏を自宅に連れ帰ったため、張国政氏は妻と子供に会わせないよう1人だけで里返りした。親子の確執の背景にはこうした微妙な家庭環境もあるようだ。

 6月に父親と衝突した際、張国政氏はグループ子会社の中央再保険の副董事長に転任させられている。ただ、長栄集団の董事職や持ち株はそのままで、張栄発氏との関係は完全に決裂するまでは至っていない。「彼らの親子げんかは年中行事のようなもの。時間がたてば張国政氏が父親に頭を下げる可能性がある」という観測がグループ内ではもっぱらだ。

長男も離脱

 張栄発氏が後継者育成に挫折したのは、これが初めてではない。1980年代後半から90年代前半にかけては長男の張国華氏を後継者にと目し、長栄海運(エバーグリーン・マリン)の総経理に据えた。しかし張国華氏は組織のスリム化を実行しようとして年配の幹部たちの不興を買い、張栄発氏とも関係が悪化した。93年、長栄海運の副董事長に昇格する形で実際は実権を奪われた。5年後副董事長も辞め、今は持ち株会社である長栄国際の大株主にすぎない。

 長女の婿である鄭深池氏は25年間にわたって長栄集団で要職を務めたが、張栄発氏との関係悪化から01年に当事の交通銀行の董事長に転じ、現在兆豊金融控股の董事長職にある。

 張栄発氏は10月6日に満80歳の誕生日を迎える。かつて張国政氏が、「父と議論する時、父はそばにいるのが息子なのか、重役なのか、自分自身なのか全く分からなくなる時がある。議論している中味だけがそこに存在しているようだ」と語ったことがある。張氏の仕事への没入ぶりを示すエピソードだが、自分の判断と決定が絶対と考えるタイプであることも物語っている。度重なる後継者たちとの衝突は、こうした性格と大いに関係していそうだ。

 健康状態は全く問題ないようだが、80歳といえば何があってもおかしくない年齢であるのも事実。高齢の創業者が第一線で采配をふるい続け、後継者が定まっていない現状は、企業経営の観点からは明らかにリスクだ。

台プラは10年かけて準備

 この点、台湾プラスチックグループの創業者、王永慶氏は、10年かけて息子や娘たちへの引き継ぎを準備し、現在は完全に引退している。台プラグループも王一族の家族経営ではあるが、数字と結果を重んじ、リーダーの個人色は比較的薄いようだ。王永慶氏の後継者育成と引き継ぎは、「さすが経営の神様と言われただけのことはあり見事」と称賛されている。

 張栄発氏も王永慶氏も戦後台湾の経済成長を支えた大立者だが、後継者への権限委譲に関しては、かなり違った様相となった。どちらが良かったのかはすでに明らかで、長栄集団の場合、最も優先的に取り組むべき経営課題になった感がある。
T000023982