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「中華民国」を米高官が否定、台湾の地位後退に懸念


ニュース 政治 作成日:2007年9月3日_記事番号:T00002442

「中華民国」を米高官が否定、台湾の地位後退に懸念


 陳水扁総統が、台湾の名義による国連加盟の是非について来年3月の総統選挙と同時に住民投票を実施する方針を示していることに関連して、米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のデニス・ワイルダー上級アジア部長は現地時間の8月31日、「台湾または中華民国は現在の国際社会において国家ではない」と発言した。「中華民国」の国としての扱いが米国の政策関係者によって否定されたのは初めてで、米国の台湾海峡政策における台湾の地位後退を招いたとして、陳総統に強い批判が浴びせられている。
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陳総統は31日、テレビのインタビューで、「中華民国とは一体全体何なのか」と改めて発言。選挙に向けて、台湾アイデンティティをより強く打ち出していく方針とみられる(31日=中央社)


 ワイルダー上級部長は、国連加盟の住民投票案について、「全く必要のないもので、困惑を感じる」と批判。「現在の情勢において台湾の国連加盟は不可能で、加盟推進は単に両岸(中台)関係の緊張を増すだけだ」と説明した。また、「中華民国」については、「長期にわたって未解決で、解決の待たれる問題というのが米国政府の立場」と語った。

独立派が歓迎

 この発言について、独立派寄りの自由時報は1日付で、「中華民国は国ではない」という大見出しを掲げ、「『中華民国』が国際社会で一体何なのか、はっきりと語られた。中華民国では国連加盟国となる資格は全くないことは、過去14年間の加盟申請がことごとく失敗したことでも明らかなのに、国民党は現実を直視してこなかった。中華民国の信者はびんたを食らったのだ」と書き立てた。 

 独立派の台湾の現状認識は、「すでに独立しており、国家の正常化推進、すなわち中華民国体制の打破が推進課題」が最大公約数と言って良い。この、「中華民国の否定」において米国の裏書きが得られたとしてワイルダー発言を評価したのだった。

台湾の枠組みまでも否定

 これを、「滑稽すぎる解釈」と批判したのは、翌2日の聯合報だ。同紙はワイルダー発言の目的について、「国連加盟の住民投票は、台湾独立宣言、台湾海峡の現状の変更に向かう深刻な一歩」という危機認識の下、「独立派の活動空間の圧縮」を狙ったものと解説。発言によって、中華民国の枠組みが否定されたことは、その枠組みを利用して新たな台湾としての国家を立ち上げようという独立派にとっても大打撃なのだと自由時報に反論した。

 米国は1979年1月の米中国交樹立の際の共同コミュニケに、「中国は一つであり、台湾は中国の一部であるという中国の立場を認識する」「『二つの中国』、または『一つの中国、一つの台湾』をつくる政策をとる意思はない」と盛り込み、以来一貫して「一つの中国」政策をとっている。一方で、中華人民共和国の台湾に対する主権については中国側の主張を受け入れておらず、中国の武力による併合には明確に反対の立場で、台湾とは経済はもちろん、軍事交流も積極的に行ってきた。

 ワイルダー発言は、台湾独立派ではなく、中国の立場に一歩近づいたものと聯合報は見ている。「中華民国」支持も中華人民共和国も、「一つの中国」という立場は同じではあるが、イラクやイラン問題で手一杯で東アジアに手が回らない米国が、今後の台湾海峡政策を、「中華人民共和国は国だが、中華民国は国とは言えず対等ではない」という認識を前提に組み立て、台湾により不利になっていく懸念はある。同紙は「曖昧なままにしておく方がはるかに台湾の利益になるのに、米国にこうした態度表明を迫らせてしまった」として、陳総統を改めて厳しく批判した。
 
中国、「我慢は北京五輪まで」

 豪州シドニーで開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議では、6日にブッシュ大統領と胡錦濤国家主席による米中首脳会談が予定されている。この席で、台湾の国連加盟の住民投票に関して何らかの見解表明がなされることが、すでにワイルダー上級部長によって明らかにされている。

 3日付中国時報によると、中国はこの問題で交流のある国民党上層部に対し、「マイナスが大きく、我慢できるのは来年の北京五輪まで」という見解を伝えたという。

 米国は、国連加盟の可能性が現時点でゼロにもかかわらず陳政権が住民投票を強行しようとするのは、台湾アイデンティティを訴える総統選挙情勢を有利にするための、内政の政治手段と見ている。この問題で主導権を取ることで、レームダック化を防ぎ退任後も民進党内で一定の権勢を保つことが目的の、陳総統個人の権力意欲から出ている可能性も十分考えられる。このため、米中首脳会談での表明は、陳政権にとって厳しいものになることは疑いなく、その程度が注目される。
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