新光三越と北京華聯集団の合弁大型商業施設「北京新光天地」(北京市東四環路)で起きた経営権争いは、法治が不徹底で商業モラルが低いとされる中国の投資リスクを改めて浮き彫りにした。中国との交流窓口機関、海峡交流基金会(海基会)によると、台湾企業が中国で巻き込まれた投資争議の今年1~8月の認知件数は201件に上り、年々増加傾向にある。
投資争議には、新光三越のような経営権をめぐる争いや、身体に危害が加えられたケースが含まれる。海基会による認知件数は、2002年が135件で、05年154件、昨年は290件へと急増。今年は8月までで201件と、このペースで行けば通年で300件となり昨年を上回る。
張樹棣海基会副秘書長は3日、新光三越のような投資争議が起きる根本原因について、「台湾企業の投資権益を保障する処理方法が制度化されていないため」と指摘した。
トラブルは、中国の法治が不健全で法令も不足していること原因で起きることが多く、1年、2年と先延ばしとなっても、適切に解決できない案件が少なくないという。
土地をめぐるトラブルでは、台湾企業が現地の地方政府と売買取引を行っても、後にその地方政府に当該の土地の売買を行う権利がないことが発覚して権益を侵害されたり、工場の撤去移転に応じても、関連法が不公平で損失を被るケースがある。合弁事業では中国側がさまざまな手段を使って台湾企業の権益を横取りしようというケースも多く、今回の新光三越の事件は典型的な例だという。張副秘書長は、「台湾企業から資金と技術が投じられ、経営が軌道に乗れば、あらゆる手で台湾側の財産を奪い取ろうとする、というのが現実の状況に近い」と指摘する。
税務査察をめぐって当局から拘留されたり、経営に失敗した後、不審な失跡を遂げたりするケースさえあり、海基会ではこの2種類のケースだけで300件を認知しているが、統計部門の担当者は、「多くが個人で解決するしかなく、数字に現れたのは氷山の一角でしかないだろう」と語っている。
こうした台湾企業の権益問題について、中国側の窓口機関、海峡両岸関係協会は政治的理由から協議することを避けている状態だ。
台湾幹部の更迭譲らず
注目の北京新光天地だが、4日付聯合報や工商時報によると、店長に中国側のセールス部長の女性が就任し、事実上経営権を握ったようだ。
大型案件であるだけに国務院台湾事務弁公室(台弁)や関係部門が介入し、新光三越と華聯の双方は合弁事業として経営を続けていくことには同意したものの、華聯側は呉昕達新光三越総経理を除く台湾側幹部全員の更迭については譲らない姿勢のようだ。華聯側は、「新光三越の幹部は台湾の悪習を北京に持ち込み、汚職など経済犯罪の疑いがある」と主張しており、更迭された台湾人幹部の90%はすでに北京を離れて台湾に戻っている。
一時は中国当局ら出境禁止措置を受けた呉昕達総経理は、投資を撤回することはないと強調している。また、台弁は3日、北京を訪れた台湾区電機電子公会の一行に対し、「コミュニケーション不足から起きた問題で、すでに解決しており問題ない」という認識を示した。
新光三越は信用に傷
北京新光天地には200社余りの台湾・香港の小売り企業が進出しているが、今回の事態を固唾を飲んで見守っている。華聯はこれらの小売り企業に、「今後の経営には問題ない」と説明したが、小売り企業からは、「華聯はブランド百貨店を経営した経験がなく、信頼できない。新光三越の呉家だからこそ北京に進出したのに」という不安の声が上がっている。
また、「今回の事件で新光三越は信用に傷がついた。北京に一緒に進出した小売り企業者は、新光三越が今後他の都市に投資する際に信用せず、ついて行かないのではないか」という指摘も出ている。