総統府機密費の横領や収賄など4つの罪で起訴されていた陳水扁前総統(60)に対し最高法院は11日、桃園県龍潭郷の工業用地不正売買をめぐる収賄と、台北国際金融大楼(台北101ビル)の陳敏薫前董事長からの収賄を有罪と認め、懲役11年、罰金1億5,000万台湾元(約4億1,000万円)の判決を下した。権力の頂点を極めながら重大犯罪者として刑務所に収監されることが決まったが、既に「汚職総統」としての評価は定まっており、月末の直轄市長選挙への影響も限定的とみられる。12日付中国時報などが報じた。
栄光からすさまじい転落を遂げた陳前総統夫妻。恩赦が行われない限り、陳前総統は60代をすべて刑務所で過ごすことになる(中央社)
最高法院は陳前総統の妻で共犯の呉淑珍被告にも懲役8年、罰金500万元の判決を下した。
最高法院はまた、陳前総統をめぐるこの他の裁判で、▽総統府機密費横領事件▽南港展覧館建設をめぐる収賄事件▽マネーロンダリング(資金洗浄)事件──の3件については台湾高等法院への差し戻しを決めた。これらの裁判で陳前総統と呉被告は今年6月、ともに懲役20年の二審判決を受けている。陳前総統は11日の判決で最低でも懲役11年が確定し、残りの裁判の判決によっては刑期がさらに延びる可能性がある。台湾の法律で懲役は最高で20年だ。
陳前総統は早ければ今月末、現在の台北県土城市の拘置所から、桃園県亀山郷の刑務所「台北監獄」に身柄を移される。総統経験者という経歴が配慮され独房が与えられる見通しだ。なお、有罪判決が確定したことで、総統経験者に対する礼遇の廃棄が決まり、拘置所に派遣されていた護衛官1人が同日撤収した。毎月得ていた25万元の礼遇金は、「収賄罪などの一審有罪で支給停止」と関連条例が改正されたため、既に10月から止められている。
蔡英文主席、「司法を尊重」
判決に対し、陳前総統事務所の陳淞山主任は「馬英九政権による政治的処刑だ」と非難。陳前総統の長男で高雄市議選に立候補している陳致中氏も「政治迫害」と強く批判した。
一方、蔡英文・民進党主席は「司法を尊重する」とコメント。台北市長選の同党公認候補、蘇貞昌氏は「あらゆる人が行いに対して法律と向き合い、法的責任を負わなければならない」と発言し、陳前総統との明確な線引きを行った。
民進党はクリーンなイメージの蔡主席の下で、昨年以来立法委員の補欠選挙で連勝して再出発を遂げており、陳前総統の有罪確定が直轄市長選挙での有権者の動向に大きな影響を与えることはないとみられる。
「判決は受け入れられない」。陳前総統事務所は悲痛な表情を見せた(11日=中央社)
汚職で期待裏切る
陳前総統は、台南県官田郷の貧しい農家の出身で、苦学して台湾大学に入学。在学中にトップの成績で司法試験に合格、台大法律系を首席で卒業した。
1979年に高雄市で起きた当時の国民党一党支配に対する民主化運動弾圧事件、「美麗島事件」の弁護団に加わったことがきっかけで政界入りし、94年に初めて直接投票で行われた台北市長選に当選。2000年には国民党陣営の分裂によって総統選で勝利し、台湾初の政権交代を成し遂げた。南部の貧しい出身から総統まで上り詰めた自称「台湾の子」のサクセスストーリーと、国民党長期政権の旧弊打破への期待から、就任当初は高い人気を誇った。
しかし、在任中の実績と言動、そして何よりも汚職で多くの台湾人の期待を裏切った。多大な犠牲と労苦の上に築かれた民主主義に泥を塗り、本土派陣営に大きな打撃を与えたことは、その後、国民党陣営の過大な勢力伸長を招いて政治構造をいびつにするなど、今も生々しい後遺症を残している。