ニュース 政治 作成日:2010年11月22日_記事番号:T00026674
11月27日、台北市、台北県から改称される新北市、県市合併が行われる台中市、台南市、高雄市の5直轄市の新市長を選ぶ選挙が行われる。全土のほぼ6割の人口を占める5大都市の市長選は、就任2年半を迎えた馬英九政権にとっては中間評価となり、2012年の次期総統選の動向を探る上で重要な意味を持つ。特集「2010五都決戦!」では、5市の各候補者の横顔と最新の選挙情勢を伝える。
今回の県市合併を経て人口277万人(高雄市153万人、高雄県124万人)となり、存在感を増す南部最大の都市、高雄市は、圧倒的リードを見せる現・高雄市長、陳菊氏(民進党)に対し、予備選挙で陳菊氏に敗れ、同党を離党して立候補した現・高雄県長の楊秋興氏(無所属)、国民党候補の黄昭順氏が最後の追い上げを見せている。
陳菊氏は宜蘭県出身の60歳。国民党一党独裁時代の1979年12月、高雄市で起きた民主化弾圧事件「美麗島事件」で逮捕され、6年2月の服役を経て、86年に民進党の結党に参画した。李登輝政権下で名誉回復し、94年から陳水扁台北市長の下で市社会局局長、98年から謝長廷高雄市長の下で市社会局局長を歴任後、00年から陳水扁政権下で行政院労工委員会(労委会)主任委員を務めた。06年から高雄市長。今や民進党の指導層の一人として広く知られ、今回の再選が有望視されている。
楊秋興氏は高雄県出身の54歳。01年から高雄県長を務め、現在2期目だ。85年に台湾大学土木工程研究所の修士過程を修了。建設コンサルタントの中鼎工程(CTCI)勤務後、94年に台湾省議会議員となり、政治家としての歩みをスタートする。
黄昭順氏は、彰化県出身の57歳。父は87〜93年に監察院長を務めた故・黄尊秋氏。小学校から大学まで高雄市、台南市で学んだ。81〜93年に高雄市議会議員3期、93年から務める立法委員は現在6期目で、合計30年近いベテラン議員だ。
楊・黄2人合わせても届かず
高雄は台湾人意識、台湾独立志向の強い土地柄で、陳菊氏の当選を有望視する有権者は6割を超える。旺旺中時民調中心が今月15日に行った調査によると、陳菊氏の支持率は46%に上り、楊秋興氏(24%)、黄昭順氏(14%)は、2人を合わせても歯が立たない状況だ。
「よそ者」の陳菊氏が安定した人気を保っている理由は、土地柄や、日本のコメディ漫画『あたしンち(けらけいこ原作)』の母に似た親しみやすいルックスだけではなく、市長としての業績に裏付けられたものだ。
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の塩テイ区(テイは土へんに呈)駁二芸術特区進出や、小学館の高雄軟体科技園区(高雄ソフトウエア・テクノロジー・パーク)進出など、海外大手企業の誘致や、台湾楽天市場の協力を得て高雄の農産物をアピールするなど、地域経済の発展に注力。09年7月には、五輪で採用されていない競技の国際大会「第8回ワールドゲームズ高雄大会」を成功させ、高雄の世界的知名度を向上させた。
一方で、同年8月に南部7県市長と合同で、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世を台風被災地の法要に招き、これによって、中国からの観光客や調達団の高雄訪問キャンセルを引き起こしている。
「棄保」で激しいせめぎ合い
実際、楊氏と黄氏にとって、それぞれの支持票をどちらか一方に集中させ、その上で約11万票とされる無党派層の票(高雄市6万票、高雄県5万票)を取り込むことが陳菊氏に勝てる唯一の方法と言える。
楊氏は全土25県市の首長に対する満足度調査で80.29%を獲得して1位となった優秀な首長で(天下雑誌・今年9月)、鉄鋼大手、義聯集団(Eユナイテッド・グループ)の林義守董事長など熱心な支持者がいる。ただ、民進党を離党しての出馬のため、民進党支持層からの得票は多くは望めない。このため、「経済発展重視」を旗印に、民進党が批判する海峡両岸経済協力枠組み協議(ECFA)支持を打ち出して、立場の違いをアピールしてきた。
選挙戦終盤を迎えて、楊氏の泛藍(汎国民党陣営)の票田を狙う戦略はさらに明確になっている。19日の選挙集会ではかつての同志である陳菊氏を「腐敗集団を引きずり下ろせ」と痛烈に批判。さらに馬英九総統に対し「高雄は任せてほしい」と呼び掛け、国民党票を自分に集中させるよう訴えた。
楊氏の人気が黄氏よりも高いことから、国民党支持層の間では、黄氏を見捨てて楊氏当選を目指す「棄黄保楊」は従来から有力な選択肢だと考えられており、実際に一部の有力支持者が楊氏支持に転じている。しかし、馬総統はあくまでも黄氏支持を貫いており、支持者に「棄楊保黄」を呼び掛けるとともに、20日は楊氏と関係の深い仏教指導者、仏光山(高雄県大樹郷)の星雲法師を訪れ黄氏への支持を求めた。
馬総統は策を弄するような性格ではなく、楊氏の呼び掛けには応じず、最後まで黄氏の票獲得に励むとみられる。現職の対抗馬2人が同じ票田を分け合う展開となった高雄市長選は、このまま投票日を迎えれば、陳氏が容易に再選を果すことになりそうだ。
【青木樹理】
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