5直轄市長選の投票日(27日)前の最後の日曜日となった21日、各地で与野党の候補者が大規模集会を開いて支持拡大を訴えた。台北市では郝龍斌市長の再選を目指す与党国民党が大規模デモを行ったが、参加者は与野党の以前の同種のデモに比べると低調で、中間層への訴求効果を生めたのかは疑問が残る。
「カーニバル」らしさを盛り上げようとデモにはさまざまなアドバルーンが登場した(21日=YSN)
台北市は国民党支持の有権者が民進党支持者より多いものの、郝市長は、猫空ロープウェー、都市交通システム(MRT)文湖線の相次ぐ運行トラブルや、新生高架道路改修工事での幹部の汚職事件などにより評価は高くない。再選の鍵は国民党寄りの有権者層が投票に行くこと、および中間層の支持にあり、デモはこれに向けて陣営のムードを高めるべく行われた。
デモは楽しい雰囲気を演出しようと、カーニバル風を打ち出し、サーカス団や中国の民俗音楽の踊り子、アクション映画の主人公に扮した若者、飛行機のキャビンアテンダント(CA)に扮したモデルたちなど、従来の政治デモでは見られなかった格好の参加者たちが目を引いた。また、同時に行われる市議選の候補者の支持者が集団で参加しているのが目立った。
参加者数は主催者発表で10万人、台北市警察局発表で7万人だが、行進を行った忠孝東路では、人の列が細い上に空きが目立ち、実際には2万人以下と思われた。
「反腐敗」から変更
デモが低調だった最大の原因は訴求テーマの弱さだ。「台北のために歩く」がキャッチフレーズの同デモは当初、今月8日に陳水扁前総統に対し、在任中に金融機関から7億1,000万台湾元(約19億6,000万円)受け取ったことが賄賂には当たらないとして無罪判決が下されたため、「反腐敗」を訴求点にする予定だった。しかし翌週、今度は別の事件で有罪・懲役が確定したため「反腐敗」は使いにくくなった。
そしてちょうど先週、広州アジア大会のテコンドー女子で、台湾の金メダル候補、楊淑君選手が不当な判定で失格となった上、かつアジアテコンドー連盟にホームページで侮辱される事件が起きたため、これに対する怒りを支持層結束に使うべく、急きょ「楊選手支持」をメインテーマとし、立法委員や市議らがテコンドーの道着を着て行進した。
しかし市政とは何ら関係ない、あえて設定した訴求点であることは誰の目にも明白で、わざわざ忠孝東路の上り車線を通行止めにしてデモを行う必要があったのか、疑問も投げ掛けられた。緊迫した情勢が伝えられる選挙で、カーニバルの雰囲気もそぐわなかった。「郝龍斌のために歩く」が実態のデモは、必ず投票に行く国民党支持者を元気付ける以上の意味を持たなかったとみられる。
「楊淑君選手の名誉を返せ!」と行進。国民党と民進党は現在、「楊選手を選挙に利用している」と非難し合っている(21日=YSN)
指導層の足並み一致せず
さらに、「敗北が許されない首都」の台北市でありながら、泛藍(汎国民党陣営)の新党、親民党は参加を見送った上、馬英九総統も最後の集会に参加したのみでデモには出ず、連戦・国民党名誉主席は台南出身であることを理由に敗色濃厚の台南市の党公認候補の応援に行き、呉伯雄名誉主席も参加せずと、指導層の足並みが一致しなかったこともデモの効果を希薄にしたようだ。
蘇貞昌氏、デモ受け流す
民進党の対抗馬である蘇貞昌・同党元主席は国民党デモの影響について「どちらが民心により近いかが重要だ」と語り、参加者数は重要ではないとの見方を示した。民進党は郝市長の不人気で、国民党寄りの有権者が投票に行かない状況の中、固定票による僅差での勝利を狙っている。