ニュース 政治 作成日:2010年11月26日_記事番号:T00026796
台北市は、国民党の現職、郝龍斌氏と、陳水扁前政権で行政院長を務めた民進党の実力者、蘇貞昌氏の事実上の一騎打ちだ。
郝龍斌氏は台北市出身の58歳。軍の最高実力者として参謀総長などを歴任した郝柏村氏の息子の外省人第2世代だ。前回2006年の台北市長選で、民進党元主席の謝長廷氏を大差で破って当選した。今回は再選を狙う。
蘇貞昌氏は屏東県出身の63歳。国民党一党独裁時代の1979年、高雄市で起きた民主化運動弾圧事件、「美麗島事件」で被告側の弁護団に加わったことがきっかけで政界入りした。その後、屏東県長、台北県長を歴任、陳水扁政権2期目の06年から1年4カ月間にわたり行政院長を務め、08年の総統選には謝長廷氏との正副総統候補ペアで立候補したが、国民党の馬英九・蕭万長ペアに大差で敗れた。
激しい接戦に
台北市は今回選挙が行われる5市の中で、勝敗の行方に最も強い注目が集まっている。それは、台北市が全土で指折りの国民党支持層が強い選挙区でありながら、郝市長の不人気によって、蘇氏と激しい接戦になることが予想されているためだ。
郝市長の行政手腕に疑問符が投げ掛けられた代表例は、07年7月に開通した猫空ロープウエー、および09年7月開業の都市交通システム(MRT)内湖線(中山国中〜南港展覧館)の2つの交通インフラによってだ。いずれも開業当初から運行トラブルが続発し、猫空ロープウエーは台風被害によって08年9月から約1年半にわたって運行停止を余儀なくされた。MRT内湖線も、開業後に何度も運休してシステム点検を行う事態となった。安全が最も重要な交通インフラで、多額の費用を投じて完成したものの信頼性が低かったという結果に、郝市政への不信感は大きく高まった。
そして今年、新生高架道路改修工事や台北国際花卉(かき)博覧会(花博)で、台北市が高額な調達を行っていたことが発覚し、新生高架道路工事では市の最高幹部である楊錫安秘書長(10月27日解任)が、不正に利益を得た罪で起訴された。郝氏は管理能力の不足や、任命責任を指弾された。
郝氏は4年間の主要実績として市内の道路や歩道を平坦に改善する「路平専案」を挙げるが、特別なアイデアではなく行政の当然の仕事と指摘する声もある。
泛藍の金城湯池
市政で不手際続き、幹部に汚職疑惑、政治家個人としても特別に魅力的なわけでもないという場合、通常であれば再選に失敗する可能性は高い。
しかし、台北市は泛藍(汎国民党陣営)の金城湯池だ。過去4回の市長選挙で、民進党候補が勝ったのは泛藍が分裂した94年の陳水扁氏のみで、陳氏は実績を挙げて98年に再選を目指したものの、馬英九氏に約8万票(5.2%)もの票差で敗れている。
民進党候補が得票率で46%を上回ったことはない一方、泛藍陣営は最低でも54%だ。こうした有権者構造のため、蘇貞昌氏としては、中間層・若年層の取り込みと、国民党支持層が積極的に投票に行かないことが勝利の鍵になる。
今回の蘇氏の選挙戦術は、「国民党をより支持する」という台北市のビジネスパーソンに多くみられる有権者層(浅藍)に、積極的に投票所に行く意欲を起こさせないことに集中している。すなわち、選挙を盛り上げることを徹底的に回避しているのだ。
民進党はこれまで多くの選挙で「青(統一)か緑(独立)か」と、台湾人意識に訴える戦術で支持層の票を取り込んできた。しかし今回蘇氏は、民進党のカラーである緑を「捨てた」。蘇氏の集会で手渡される風船はピンク、小旗はオレンジ、水色と、緑もあるが4色のうちの1色に埋没している。緑を目立たなくする最大の狙いは、国民党支持層に対抗意識を起こさせないようにするためとみられる。
「台北を超える台北」をキャッチフレーズに、交通や居住性の改善などを公約に掲げているが、特に耳目を引くような訴えは行っていない。無駄遣いや非効率など市政の問題点を批判する一方で、郝氏側から論争を仕掛けられても受け流して乗らない。選挙集会は市内各地で若者のバンドによる音楽会を開くスタイルで、動員も一切かけない。ホームページは明るくソフト、選挙グッズも若者向けのファッション性のあるTシャツなどにして、いわばイメージ選挙を意図的に展開してきたのだ。
そして、こうした手法は現段階で一定の効果を挙げているように見える。今回、民進党支持層の士気は高く、蘇氏の選挙集会には多くの人が足を運んでいる。一方、郝氏の集会では動員された以上の支持者は目立たず、陣営を勢いづけるべく21日に市中心部で行った大規模デモも不発気味に終わった。国民党の支持層が危機感を高めて、票が増えるという流れにはなっていない。
無論、それでも蘇氏が国民党支持層の厚い壁を破れる保障はない。しかし、仮に僅差で当選できれば、台湾の選挙史上に特筆される優秀な戦術だったとして後々まで記憶されることになるだろう。
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