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馬政権の「一つの中国」、懸念が拡大


ニュース 政治 作成日:2011年2月14日_記事番号:T00028193

馬政権の「一つの中国」、懸念が拡大

 フィリピン政府が今月、国際詐欺事件の容疑者として摘発した台湾人14人の身柄を中国に引き渡したことに対し、「一つの中国」を掲げつつ中国との融和を進めた馬英九政権の悪しき副作用との批判が起きている。「中国に属する台湾」としての印象が国際社会に広がることへの懸念から、国民党内の本土派からは1年後に迫った総統選挙への悪影響を指摘する声が挙がっている。14日付自由時報などが報じた。


馬総統は13日、台南市第4選挙区の立法委員補選の応援に駆け付けた。南部での巻き返しの起点として重視している(13日=中央社)

 馬総統は就任以来、中国との関係改善の一環として、外交政策で、▽承認国の獲得をめぐり中国と争わない▽台湾の国連復帰を求めない──に代表される「外交休兵」を推進した。

 これにより、38年ぶりの国連活動復帰となる世界保健総会(WHA)へのオブザーバー参加(2009年5月)など、台湾の国際社会復帰に一定の効果があった。しかし、馬政権の場合、「中国の一部である台湾」としての位置付けは明確で、あくまでのその立場での「国際活動空間の拡大」であり、中国に対する台湾の独自の存在として権益を求めてきた陳水扁、李登輝の前2代政権とは姿勢が大きく異なっている。

総統府は沈黙

 フィリピンのオチョア官房長官は9日、容疑者引渡しをめぐる台湾側の批判に対し、「『一つの中国』政策を尊重したため」と説明した。中国の内部問題であるため、中国と台湾の双方で解決すべきとの見解だった。「一つの中国」自体は馬政権の方針に沿うもので、事件をめぐって総統府は沈黙を保つことになる。

 しかし台湾社会は、フィリピンが台湾独自の司法権を無視したことに大きな衝撃を受けた。仮にこれが先例となって類似案件が続けば、「台湾の司法問題は中国が対応できる」との認識を国際社会に与え、台湾の主権と権益は大きく損なわれてしまう。このため親中的な立場を取る中国時報も「台湾の主権に対する絶大な侮辱」とフィリピンを糾弾する社説を掲載した。

 こうした中、馬総統は7日、中央行政機関のトップを集めた席で、公文書で「中国」という呼称を禁じ、「中国大陸」または「大陸」を使用することを通達した。中国と台湾が別々の国家であるとの印象を与えないようにするためとの理由で、「台湾と中国はともに『一つの中国』に属する」という政権の立場をより鮮明にしたと受け止められた。

南部の巻き返しを困難視

 昨年11月の5直轄市長選挙で、国民党は独立派の強い南部での票流失が明白となった。来年の総統選に向けて同党は南部での勢力立て直しに注力する方針を打ち出したものの、馬政権による中国傾斜の印象がさらに強く印象付けられた最近の情勢から、成果には悲観的な見方が出ている。国民党本土派のある人物は「南部での票流失は深刻だ。馬政権は中台関係の改善を業績に挙げているが、国際社会における中国の圧力で説得力を失っている」と指摘した。

 中台関係の改善よる経済的恩恵を重視するのか、または台湾独自の主体性を重視するのか、馬政権の業績と課題が明らかになった現在、来年の総統選は台湾の方向性を決定付ける度合いがこれまで以上に強まりそうだ。