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李登輝元総統起訴、総統選への影響は?


ニュース 政治 作成日:2011年7月1日_記事番号:T00030994

李登輝元総統起訴、総統選への影響は?

 李登輝元総統が公金横領で起訴されたことで、半年後に迫った総統選挙への影響が注目されている。李元総統は馬英九総統の親中姿勢を強く批判しているため、野党・民進党は、起訴は李元総統に同党の総統選公認候補、蔡英文主席の応援をさせにくくする政治的目的に基づいたものと判断、悪影響を懸念している。ただ、南部の有権者の反感を高めるなど、むしろ国民党にマイナスになるとの指摘も少なくない。


李元総統は大きな難関を迎えた。かつての輝かしい業績に傷が付いてしまうのか(中央社)

 起訴に対し李元総統事務室の王燕軍主任(群策会秘書長)は、李元総統が「自身の潔白を守る。強い圧力がかかろうとも立ち向かう」とコメントしたことを明らかにした。李元総統は起訴に非常に驚き、最高検察署の広報文を読んだ後、検察の事情聴取での説明が全く採用されていないことを知り、理解できないと語ったという。

中間層の票流失?

 野党陣営は、起訴が李元総統の声望を落とすための政治的目的を持ったものという見方で一致している。蔡煌瑯立法委員(民進党)は「選挙のための政治的迫害であることは疑いない」と批判。台湾団結聯盟(台聯)の黄昆輝主席は「馬総統が『馬を捨てて台湾を守ろう』と主張する李元総統を恨み、司法を使って汚い政治闘争を企てたに違いない」と非難した。

 野党陣営の懸念は、李元総統が被告の汚名を着せられたことによる選挙戦での影響力低下だ。李元総統には2004年、陳水扁前総統が再選を目指した選挙戦の終盤、台湾全土を「人間の鎖」でつなぐイベントで陳前総統の応援に立ち、僅差での逆転勝利に貢献した実績がある。蔡主席がかつての上官でもある李元総統を強く擁護した場合、穏健で理性的なイメージが崩れ、中間層の票を失うという指摘も与党側の選対関係者から出ている。

「陳前総統効果」、期待できず 

 一方で、むしろ野党側にとってプラスとの見方も出ている。「国民党は台湾人総統はすべて投獄する気だ」と有権者の感情に訴えれば、中南部での支持層固めに有利だ。李元総統も起訴によって言動への注目度がより高まり、その際、国民党が批判を行えば、中国との将来的な統一を指向する「中華民国正統派」の有権者層の歓心を買うことはできるものの、本土派支持層の投票意欲を落とす恐れがある。

 また、李前総統の場合は既に10年以上の前の事件で、在職時から汚職のうわさが流れていた陳前総統は異なり、起訴によって与党陣営の結束力を高める効果はほとんどなく、かえって野党に同情票を獲得させるとの見方もある。

 なお、国民党の選対関係者は、「李元総統の国民党支持者への影響力は大きくない。選挙情勢の影響は限定的だ」との見方だ。

「反省ない」、検察が批判

 最高法院検察署特別偵査組は30日、李元総統の起訴に関する記者会見で、5月31日に李元総統に対し事件に関して3時間にわたって事情徴収を行った際、李元総統の回答が「知らない」「分からない」「覚えていない」ばかりだったと明らかにし、「責任を回避しており反省もない」と批判した。

 起訴事実によると、李元総統は94年に南アフリカとの外交関係維持を図る工作(奉天專案)の資金として、国家安全局の予算から拠出した機密費2億8,200万台湾元(約8億円)のうち、779万米ドルを台湾総合研究院の設立資金などに充てた。1日付中国時報によると、李元総統が「機密費の残りを台湾総合研究院第4所の設置経費に回すように」との発言が記録された、徐炳強・国家安全局会計長(当時)が作成し、殷宗文・国家安全局局長(同・故人)と李元総統の側近だった劉泰英・国民党投資事業管理委員会主任委員(同)が署名を行った備忘録が残されており、これが起訴の決め手になったという。

 なお1日付聯合報は、李元総統は既に88歳の高齢のため、仮に有罪が確定しても収監される可能性は低いと報じている。

資金洗浄疑惑も

 李元総統には、機密費5,100万米ドルをシンガポールなどに送金して資金洗浄(マネーロンダリング)を行った疑いもある。これは2009年9月、陳前総統が自身の事件で捜査を受ける過程で検察に告発したもので、検察は既にシンガポールの銀行の帳簿を調べたり、関係者を台湾から出境停止とするなど捜査を展開している。

 これについて台湾各紙は、かつては「父と子」に例えられた李元総統と陳前総統の関係が、怨恨に満ちた結末を迎えた皮肉さを指摘している。