ニュース 石油・化学 作成日:2011年8月8日_記事番号:T00031750
台塑集団(台湾プラスチックグループ)の第6ナフサプラント(雲林県麦寮郷、通称六軽)で爆発・火災事故が頻発する理由は、同グループが利益を追求するあまり、過度のコスト削減を進めて安全面がおろそかになっていたことにあった。徹底したコスト削減は台プラの成功を支えた重要な要素だが、それが「神話」の崩壊を招く皮肉な事態となっている。経済誌『商業週刊』最新1237号が伝えた。
抗議を行う周辺地域の住民たち。彼らにとって第6ナフサはもはや「時限爆弾」だ(中央社)
第6ナフサは1994年に着工、98年に操業を開始した。創業者で「台湾の松下幸之助」の異名を持つ王永慶董事長(08年没)は当時、「台湾中油(当時の名称は中国石油)の3分の1の価格のガソリンを生産する」と意気込み、最も低価格の材料でプラント内の各工場を建設し、最低限の人員で管理を行うことにした。当時、台プラがナフサプラント設備の調達に投じた費用は3億9,800万米ドル。米石化大手エクイスター・ケミカルズが同規模の投資で行った6億米ドルの、わずか6割の水準だった。
第6ナフサ内の輸送管の総延長は台湾を3周するほどに及ぶ。台プラはその輸送管に、「海外でも広く使われている」という理由で、核心工場に当たる製油所を含めて、安価で抗腐食性の低い低合金鋼を使った。しかし別の台湾石化メーカーは「腐食が起きやすいため、高温高圧の業務環境の場合、(当社は)価格の高いステンレス鋼材を使っている。高価だがその後の維持コストは低く、漏れが起きる可能性は非常に低い」と話している。
一般に炭素鋼とステンレス鋼の価格差は3〜4倍以上とされる。石化工場の耐用年数は30〜40年だが、第6ナフサはガソリンの供給を始めた2000年からわずか10年後に「老化」が明確になり、輸送管の腐食を原因とした火災が相次いでいる。
低価格原油を使用
輸送管内を流す石化原料にも問題があった。台湾中油が硫黄分の少ない軽質低硫黄原油を使ってガソリン・軽油を生産している一方、第6ナフサでは低価格だが硫黄分の多い原油や、他の石化メーカーでは購入を見送るような精煉しにくい原油まで取り扱う。原油調達コストは確かに大幅に抑制できたものの、財団法人金属工業研究発展中心(金属センター、MIRDC)によると、重油の高温脱硫を長時間行った場合、輸送管壁に腐食生成物の硫化鉄ができる。さらに年次保守の際の蒸気で形成される酸性腐食物によって部分的な腐食が進むという。
第6ナフサは台湾海峡に面しており、昼夜を問わず塩分を含んだ海風が吹き付ける。台湾塑膠工業(フォルモサ・プラスチックス)の李志村董事長は7月30日、「当初、麦寮の海風に塩分がこんなに多いとは思っていなかった。高雄や米国でのプラントと同じ工法なのに腐食がより深刻だ」と語っている。そうした立地であればこそ、安全には細心の注意を払うべきだった。
フル稼働で設備に負担
利益追求のため、設備はフル稼働させて負担をかけていた。第6ナフサの製油所は当初、1日当たりの原油精製量45万バレルで設計されていたが、ボトルネック除去作業を経て現在の精製量は同54万バレルと20%拡大している。台プラでボトルネック除去作業とはあらゆる手段を尽くして、固定費は据え置いたまま生産量を拡大することを意味し、成果を挙げた担当者は昇任・昇給にあずかれた。しかし一方、台湾中油の製油所は、1日当たりの精製量55万〜60万バレルで、処理能力72万バレルに対し余裕を持たせている。
利益23倍に
なお、第6ナフサの「成功」は台プラの成長を大きく加速させた。グループの税引前利益は、第6ナフサの稼働がまだ初期段階だった01年に138億4,000万台湾元(約370億円)。これがピークの07年には3,277億8,000万元と実に23倍に増えている。
台プラは王永慶氏の死去後に問題が頻発したかのように見られているが、04年の米イリノイ工場で5人が死亡した爆発事故や、06年の台塑石化(フォルモサ・ペトロケミカル)の年次保守における2人死亡4人負傷の事故など、実際は王永慶氏の時代から問題は起きていた。
徹底した管理とコスト削減、利益追求によって築かれた「台プラ神話」は、まさにそれによって崩壊したのだ。
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