立法委員選挙の投票日(12日)前の最後の週末となった5日と6日、主要各党は集会やメディアを通じて、台湾主体意識や経済浮揚など、それぞれの主張を強力に訴えた。有権者の政治に対する嫌悪感の高まりから、史上最も盛り上がりを欠いていると伝えられる今回の選挙戦だが、直前にしてムードが高まってきた。
陳総統は5日台北市、6日高雄市を各候補者とオープンカーで回り、支持を訴えた(6日=中央社)
情勢不利が報じられている与党民進党は、最終盤にきて「反中国」の台湾意識を喚起する訴えを強めている。同党主席を兼ねる陳水扁総統は6日夜、台南市での選挙集会で、「中国国民党と中国共産党は、海峡を隔てて結託している。立法院で国民党が過半数を取るようなことがあれば、台湾の敗北であり、中国の大勝利だ」と語気を強めた。
呂秀蓮副総統も同日、「中国はさまざまな手段で台湾に圧力をかけているが、その中国に台湾を献上してしまおうという政党がある」と国民党を批判。民進党が立法委員選で勝てず、国民党の政権奪回を許した場合、「国民党は台湾の人材に大陸(中国)行きを奨励する。台湾は第2の澎湖島になってしまう」と語り、台湾が空洞化して取るに足らない存在に転落すると訴えた。
民進党は先週末から放映しているテレビコマーシャルでも、「2000年の台湾本土政権誕生後、国民党は無謀な対抗を繰り返した。立法院で民進党提案の数々の法案を否決し続け、ついには連戦前主席が訪中し、96年の台湾海峡危機でミサイルまで発射した中国と結託した」と批判。民進党の集会参加者の持つ「NO CHINA」というプラカードを大きく映し出し、反中国感情に訴えている。
なお、陳総統は7日、獲得議席数の目標を従来の「50議席」から変更しない考えを表明し、「必ず取れる」と強調した。50議席では依然少数与党のままだが、総統選挙で謝長廷候補の勝利を経て、過半数を目指すという。陳総統は、「国民党が立法院の絶対多数を取るような事態になったら、『一つの中国』と『最終的な統一』の枠組みの下、台湾には統一以外の選択肢がなくなってしまう」と改めて危機意識を訴えた。
「台湾を救え」と経済発展を訴える国民党。韓国大統領選で当選した李明博氏の選挙手法の影響がみられる(5日=中央社)
経済発展、中国には触れず
国民党は5日は台中市、6日は台南市で大型選挙集会を開いた。台湾は北部では野党、南部では与党の勢力が強く、国民党は中南部での戦いが過半数超えの鍵になるとみて力を入れている。国民党は優勢と報じられているが、総統選公認候補の馬英九氏(同党前主席)は、「選挙戦は非常に緊張した状態で、楽観できる理由は全くない」と気を引き締めている。国民党は、陳総統への銃撃事件があった04年の総統選、国民党候補の「票の買収」が暴露された06年の高雄市長選は、「民進党が卑怯な手段を使ったため、本来は勝っていたはずなのに負けた」と考えており、今回もそうした手段が用いられるという懸念を公言し、有権者に警戒を呼び掛けている。
集会では、国民党が政権を奪回してこそ経済浮揚が可能だと、「経済成長率6%、1人当たりの国民所得3万米ドル、失業率3%以下」の「633公約」など、経済成長の実現を長い時間を割いて訴えた。国民党の経済成長公約は、中国との経済交流の大幅開放と表裏一体だが、有権者の反発を懸念してか、全く中国を持ち出さないことが大きな特徴だ。
小政党は存亡かかる
今回の立法委員選挙は初めて、小選挙区比例代表並立制で行われる。統一派政党・新党や、李登輝前総統を精神的指導者とし、今回は第3勢力として民生重視を訴えている台湾団結聯盟(台聯)にとっては、比例代表で5%以上の得票を得ない限り議席が配分されないため、存亡を懸けた戦いになっている。
国民党はこの週末、野党支持の比例代表の票を国民党に集中させるよう訴える広告を主要紙に掲載した。野党陣営は、有力候補の一本化に失敗した結果、94年の台北市長選や00年の総統選で民進党に敗北した苦い記憶がある。このため広告では、「過去の分裂を教訓にしよう。票の分散は民進党への協力を意味する」と、新党などの支持者に呼び掛けた。
こうした動きに対し、新党は5日の選挙集会で、「住民投票の票の受け取り拒否は新党が言い出して国民党がこれに続いた。国民党は今や全く統一について語らない。新党は国民党の言わないことをあえて言う」と訴え、「国民党、民進党を監視する役割の新党に投票しないことこそ票の浪費だ」と反論した。
李前総統、メディアでアピール
台聯も比例代表で5%以上の得票を狙い、盛んな宣伝を繰り広げているが、先週、本土派の各団体から「与党の票を分散させてしまう」と公開での批判を受けた。
これに対し李前総統は、積極的にさまざまなメディアに登場し、第3勢力としての台聯の重要性を力説している。
李前総統は今月15日に85歳の誕生日を迎えるが、7日付聯合報によると、最近は秋川雅史の「千の風になって」の曲が非常に気に入っているそうだ。すでに台湾人男性の平均寿命(74.57歳、06年)を10歳以上超えており、元気なうちに全力を尽くそうという思いがうかがえる。7日は午後7時半から主要テレビ局で、主張を訴えるCMを一斉に流す。
与野党の消長に注目
小選挙区制の場合、与野党の得票率がわずかな差しかなくても大勝・大敗が起こり得る。 また、「小選挙区制は政党の理念がより問われるため、民進党が意外に取る」という観測もある。野党が大きく勝てば、経済の悪化や政権の腐敗に対し、有権者が民進党に批判票を突き付けたということになるだろう。
民進党と国民党の2大政党の消長をはじめ、小政党の命運はどうなるのか、また、紛糾した住民投票に有権者がどのような判断を下すのか、立法委員選挙は今回も見どころ満載だ。