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民進党の政権運営に厳しい批判、総統選挙で巻き返しの予想も


ニュース 政治 作成日:2008年1月13日_記事番号:T00004949

民進党の政権運営に厳しい批判、総統選挙で巻き返しの予想も

 
 今回の選挙結果からは、有権者が過去8年の民進党政権の実績と政権運営のあり方について、厳しい批判を下したことがうかがえる。

 中国の台頭とグローバル化の進展によって、先進国では製造業の中国移転が進んで賃金が上昇しくにい時代になり、民進党政権の登場はこれと重なった。現在、台湾は経済成長率や消費動向などの指標を見ても、むしろ景気は良好な状態と言える。しかし、原油高と基幹食糧価格の高騰によって昨年は大幅な物価上昇に見舞われ、地価高騰もあって庶民の生活感は悪化した。従来型産業の割合の高い中南部は、産業の中国移転により雇用が特に悪化したが、陳政権は有効な対策を打てていない。

 有権者には国民党時代の経済成長の記憶が残っており、野党寄りのメディアが日々「不景気」を連呼するため、「民進党政権が無能だから、台湾は不景気なのだ」と考える有権者は多い。

 高度成長を続ける中国と安定した関係を築いて経済を浮揚させるという選択肢はあるが、民進党は「台湾と中国は別々の国」という独立イデオロギーの政党であるため、中国が前提条件とする「一つの中国」を受け入れず、対話自体が進まない。

イデオロギー作戦が失敗

 民進党も立法院で野党に多数を握られ続けながら、経済発展に力を入れはしたが、野党寄りが多いメディアには全く評価されない。経済に関する庶民の不満に直面しながら、陳水扁総統が「経済が良いからといって選挙に勝てるとは限らない」と放言したり、現実には見込みのない国連加盟のための住民投票強行や、中正紀念堂の廃止など、経済・民生とは関係のない独立イデオロギーの政策を推進した。

 こうした自陣営のイデオロギーへの固執は、経済をないがしろにして選挙対策に走った独善的な姿勢と映った。しかも、族群(エスニックグループ)間の対立感情をあおって社会の不安定感を率先して招いているとして旧来の支持者や中間層の失望と離反を招いたことが、今回の敗北につながった最大の要因と考えられる。

 今回は投票率が立法委員選挙としては過去最低の58.5%(選挙区)で、民進党の地盤である高雄県・市で9選挙区中3選挙区しか取れなかったような投票傾向から、これまでは民進党に投票したものの、今回は棄権した有権者が多かった可能性が高い。

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小選挙区導入が裏目

 ただ、民進党の敗北がここまで悲惨なものになった最大の原因は、今回初の導入となった小選挙区制だ。民進党の得票率は選挙区で38.17%、比例代表で36.91%で、05年の立法委員選よりも上昇し、同党の基盤に大きな動揺はなかったことが分かる。

 しかし、小選挙区では1人の当選者しか選べず、各選挙区で国民党の候補を上回れなかった結果、民進党が立法院に占める議席数は全体の23.8%となり、得票率とは13ポイント以上の開きが出た。自ら導入した制度によって墓穴を掘ったといえる。

 勝利した国民党の得票率は、選挙区が53.5%で、比例代表が51.23%。そして、立法院の議席割合は71.7%だ。民進党も国民党も、そして有権者も小選挙区制度の恐ろしさに強い印象を受けたと思われる。

 

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「総統選、別の論理がはたらく」

 民進党は2カ月後に迫った総統選挙に、厳しい状況で臨むことになった。

 今回、総統選挙の指標といわれた比例代表では2人に1人が国民党に投票しており、新党や紅党、無党団結聯盟などに投票した、総統選では国民党の馬英九候補に確実に投票するとみられる有権者の比例票の合計割合は、少なく計算しても56.6%に上る。

 この結果を見れば馬候補が順当に勝利を収めそうだが、海外の研究者からは、「総統選挙では、また別の論理が働くため、現段階で結果を予測することは困難」という声が出ている。

 約40年にわたって台湾の選挙をウオッチしているオーストラリアの学者、ブルース・ジェイコブス氏は今回の結果について、「投票率が過去最低だったのは、民進党支持の有権者が『政治離脱症候群』にかかり、投票に行かなかったためだ。彼らが今回の結果に刺激されて総統選挙では投票に行けば、謝長廷候補の勝利があるかもしれない」と指摘する(中央社12日報道)。

 また、米ワシントンの民間シンクタンク、ヘンリー・スチムソンセンターのアラン・ロンバーグ研究員も、「謝候補は党主席就任後、党のイメージ改善に努めるだろう。これまでの謝候補の選挙戦略から見て、総統選挙で国民党の大勝利が再現されると考えるのは不適切だろう」と語る(中央社13日報道)。

 総統選挙では、対中関係と台湾の将来像が、最大の焦点となってきた。独立論者の謝候補は、中国とは距離を置いた主権国家としての台湾の現状維持を訴える一方、馬候補は対中関係を大幅に改善し、経済交流の開放拡大による台湾経済の回復を主張している。
 
 危機意識に駆られた民進党の支持者が謝候補への投票に立ち上がるのか、安定と経済回復を求める有権者のエネルギーがより強いのか、台湾の次代を決める決戦はいよいよ2カ月後に迫っている。

(Y’s News)