ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

MRT血の惨劇、無差別殺人で4人死亡


ニュース 社会 作成日:2014年5月22日_記事番号:T00050494

MRT血の惨劇、無差別殺人で4人死亡

 台北都市交通システム(MRT)板南線の車内で21日夕方、男が刃物で周囲の乗客を切り付ける無差別殺人事件が起き、4人が死亡、21人が重軽傷を負った。公共交通機関で無差別殺人が起きたのは台湾で初めてで、白昼に起きた突然の惨劇は社会に大きな衝撃を与えている。現行犯逮捕された鄭捷容疑者(21)は東海大学(台中市)2年生で、「自殺する勇気がなかったので、殺人を犯して死刑になろうと思った」と身勝手な供述を行っている。22日付蘋果日報などが報じた。


逮捕され連行される鄭捷容疑者(21日=中央社)

 事件は午後4時20分頃、台北方面から板橋方面に向かう電車が龍山寺駅を出発した直後に起こった。6両編成の5両目に乗っていた鄭容疑者は、用意していた刃渡り30センチメートルの果物ナイフと折り畳みナイフを両手に持ち、目を閉じて座っていた近くの乗客の胸部を刺した。助けを呼ぶ間もなく、他の乗客もスマートフォンの操作に没頭していて気が付くのが遅れ、3人が次々と胸を刺された。

 車内が悲鳴でパニックとなる中、鄭容疑者は4両目に侵入。いったん6両目まで戻った後、再び2両目まで行く間に乗客を切り付け続けた。目撃者によると、鄭容疑者は立っている者は刺し、転倒した者は構わなかったという。龍山寺駅から次の江子翠駅までは板南線で最も長い3キロメートルの距離があり、所要時間は約4分間だ。逃げ場のない密室での凶行に、乗り合わせた女性は「1時間くらいに感じた」と恐怖を語った。

 電車が江子翠駅に着くと鄭容疑者は2両目から下車し、ホームをうろついて次の攻撃対象を物色したが、階段を上がったところで刃物を捨て、乗客らに取り押さえられた。そして駆け付けた警察官に手錠を掛けられ身柄を拘束された。

 刺殺された4人は、潘碧珠さん(47、女性)、張正翰さん(26、男性)、李翠雲さん(61、女性)、解青雲さん(28、男性)──の4人で、潘さんはきょう22日が誕生日で、家族と過ごすはずだった。張さんは名門、成功大学の企業管理系修士課程に在学中で、金融機関の面接試験を受けに北部を訪れていた際に被害に遭った。解さんは2〜3年前に結婚したばかりで、妻との間に3歳と2歳の2人の女児をもうけていた。台北捷運公司の譚国光総経理は、乗客には最高で400万台湾元(約1,350万円)の補償金が支払われる他、けがをした乗客の医療費も全て保険会社が負担すると説明した。

犯人は孤独で反社会的

 前代未聞の通り魔事件を実行した鄭容疑者には、精神疾患の記録はない。新北市板橋区出身で、昨年6月に国防大学(桃園県八徳市)を成績不良で退学になった後、東海大環境工程系に転学していた。家族によると、友人はほとんどおらず、パソコンの格闘ゲームが唯一の趣味だった。

 先月末、フェイスブック(FB)に書き込んだ文章が「衝動と怒りに満ちていて、反社会的傾向を感じさせる」として大学に通報され、大学側は5月9日、鄭容疑者に心理カウンセリングを行っていた。しかしその際の鄭容疑者は特に異常な言動は見られなかったという。なおFBには「今年は大きなことをやる」と書き込んでおり、今回の事件を予告していた疑いがある。

 鄭容疑者は警察の聴取に対して「後悔していない」と開き直り、龍山寺〜江子翠で犯行に及んだのは、最も駅間の距離が長いためより多くの人を殺せるからと説明。また、21日を犯行日に選んだのは、「授業がない日なので、先週決めた」と供述した。警察は今後、詳しい動機について解明していく方針だ。

 専門家からは、学業での挫折から社会を恨むようになり、自暴自棄になって犯行に及んだのではないかといった見方が出ている。

警察力を増強

 事件を受けて、MRT利用者からは「考えられない。MRTに乗るのが怖くなった」との反応が出ている。事件以降、車内ではスマートフォンの操作をやめ、周囲を警戒する乗客が増えているという。


江子翠駅の出入口は臨時の献花台となり、多くの人が花を捧げて犠牲者の冥福を祈った(22日=中央社)

 事件を受けて江宜樺行政院長は、内政部と交通部に対し、公共交通機関の安全対策を強化するよう指示した。内政部警政署は台北MRT担当の警察官を80人増援することを決めた。黄昇勇・台北市警察局長も、担当の警察官の人員数を現在の145人から180人に拡大する考えを示した。台北MRTは全部で109駅あり、1日当たり約186万人が利用するものの、警察官には非番や休暇もあるため総人数の3分2前後での対応を余儀なくされており、明らかに手薄だという。