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MRT無差別殺人、安全神話打ち砕く


ニュース 社会 作成日:2014年5月23日_記事番号:T00050522

MRT無差別殺人、安全神話打ち砕く

 台北都市交通システム(MRT)板南線車内で4人が殺害され、21人が重軽傷を負った無差別殺人事件で、逮捕された鄭捷容疑者(21)は、衝動的な思い付きではなく、ずっと以前から犯行を計画していたことが供述で明らかになった。鄭容疑者は「人を殺し終わって気分がよかった」と供述するなど全く反省の色を見せていない。台湾の街角で当たり前と考えられていた安全が、社会に憎悪を燃やした1人の若い殺人者によって打ち砕かれてしまった。23日付蘋果日報などが報じた。


鄭容疑者(手前、赤い服)は派出所から警察署に身柄を移される際、犯行に怒って押し寄せた群衆に暴行を受けそうになった(22日=中央社)

 鄭容疑者は22日未明に新北市警察局海山分局から新北地方検察署に身柄を移され、その後台北看守所(拘置所)に収監された。

 海山分局で行われた取り調べで鄭容疑者は、小学校6年生の時点で「人々を豪快に殺したい。死刑になっても構わない」と友人らに何度も語っていたことを明らかにした。その後、成長して学業や仕事を続けなければならないストレスから生きていたくないと考えたが、自殺する勇気はないため、何人か殺して死刑判決を得て死ぬことにしたと犯行動機を語った。

 一昨年、国防大学(桃園県八徳市)に進学したのも殺人に向けて体を鍛えるためで、短時間でより多くの人を殺すため、今年の冬休みは体力と敏しょう性を養うためにランニングに励んだという。また、MRTを犯行の舞台に選んだ理由は、「列車やバスでは狭過ぎるが、MRTならばやりやすいから」と語った。

 被害者の遺族に対し謝罪をする意思があるかとの質問には「なぜ謝らなければならないのか」と反問。「殺されたのが自分の家族だったらどう思うか」との問いには、「家族が殺されても何とも思わない。その場に父母がいたとしても間違いなく犯行に及んでいた」と答えた。

MRT、車内に緊張感

 台北大衆捷運(TRTC)によると、事件の影響で22日は台北MRTの利用者が、延べ7万4,000人減った。これは普段の平日の3分の1に当たる。

 車内は普段よりも張り詰めた雰囲気で、スマートフォンを操作したり新聞を読んだりする人は少なく、周囲の様子をうかがったり、怪しい乗客が乗ってこないか目配りする乗客が目についたという。特に犯行が起きた板南線ではバックパックを腹部側で背負ったりした人も見かけた。電車が犯行現場となった龍山寺〜江子翠駅に差し掛かると、乗客はみな押し黙り、窓などにじっと目をやったという。

 板南線では22日午前から警察官による警備が強化され、車内を巡回したり、各駅の要所を見回った。郝龍斌台北市長は同日MRTで出勤し、2週間以内に警察官80人の増援を実現すると改めて表明した。

無差別犯、大部分が若い男性

 社会からの疎外感や、他者への攻撃性、非情さは、小学生8人を殺害した池田小事件の吉岡守元死刑囚(旧姓宅間、04年執行)や、7人を死亡させた秋葉原通り魔事件の加藤智大被告(1審、2審とも死刑、最高裁に上告中)などとの共通性を感じさせる。 

 日本の法務省が2000年3月から10年3月までの間に判決が確定した無差別殺傷事件の犯人52人を対象に行った研究によると、犯人の大部分が若い男性で、友人、恋人、家庭を持たないか関係が悪く、安定した職業を持たない者が多かったという。さらに、精神病を抱えつつも治療を受けたことがないケースが多い。前科があったのは半数、その大部分が暴力関連で、出獄後1年以内に犯行に走った者が多かった。

 犯行の動機は、▽自身の境遇への不満▽特定の人物に対する不満▽自殺希望で死刑判決を得るため▽刑務所に入って現実から逃避したい▽殺人に興味があった──が上位を占める。すべての事例が単独犯で共犯者はおらず、犯行に当たっては女性や子供、老人などの弱者や、嫌いな人物と似た容貌の対象を狙うことが多いという。

 仮に運悪くこういう犯罪者と出くわした場合は、逃げたり、大声で助けを呼ぶのが上策ということだ。警察では、かばんや雨傘もとっさの場合に身を守るのに使えると指摘している。


鄭容疑者の実家のある新北市板橋区のマンション。両親は23日午後に謝罪文を発表した(22日=中央社)