台北市万華区でこのほど、ホームレスがガイド役を務めるというユニークな旅行ツアー「街遊」が試験的にスタートした。このツアー、おしゃれな最新の観光スポットとは無縁だが、街の裏の裏まで知り尽くす案内人により、「知られざる台北」が体験できるとあって注目を集めている。

　このツアーを提供しているのはホームレス支援団体の台湾芒草心慈善協会で、2010年にロンドンで始まった「Unseen Tours」を参考に企画された。同ツアーは、研修を受けた地元のホームレスが観光客に自らの生活ルートを案内するというもので、現在ではベルリンやコペンハーゲン、バルセロナなどでも同様のツアーが立ち上げられている。

　芒草心協会の李盈姿執行長によると、万華区における「街遊」ツアーは、約２時間の行程で、うち１時間半をかけて街の路地などを巡り、残りの30分を旅行者からの質問タイムに充てる。

　現在、既に４人のホームレスが半年間、地元の歴史文化に関する研修やカウンセリングなどを受けているそうで、そのうちの１人はかつて暴力団組織に属したことがあり、一般人には知ることのできない裏社会の話を聞くことができ、ツアー参加者は興味津々に耳を傾けるという。

　同ツアーではガイド役のホームレスに、自分の人生についても語るよう求めており、李執行長は「ガイドを務めることで仕事が得られる他、見知らぬ人に自分のことを語ることにより、新しい人生を始められる」と説明する。

　なお研修を受けた４人のうちの１人は、事業に失敗して巨額の借金を背負った揚げ句、家族に累が及ばないよう家を出る他なかったそうだ。ホームレスといえば「ぶらぶらして働かない人たち」という印象を受けがちだが、ホームレスへの偏見をなくすこともこのツアーの目的の一つとなっている。

　今月から試験的に実施されている「街遊」ツアーは現在、社会福祉団体や教育機関を通じて申し込むことができ、ガイド料は１回2,000台湾元。８月から正式にサービスを開始する予定だ。