ニュース 政治 作成日:2015年11月9日_記事番号:T00060278
7日シンガポールで行われた史上初の中台首脳会談に対し、台湾世論は最高指導者同士が初めて直接交流したことについては一定の評価を下しつつも、「1992年の共通認識(92共識)」が中台交流の基盤とした、従来の立場を確認した会談の内容に対しては「新味なし」と否定的にとらえているようだ。国民党は中台関係改善の実績と方向性を明確にアピールできた形だが、馬英九総統と習近平中国国家主席が手を携えて「一つの中国」を強調したことは改めて有権者の警戒感を引き起こしたとみられ、選挙情勢にとってプラスとなったかは未知数だ。
メディアに手を振る馬総統(左)と習主席(右)。中台はかつて長期間にわたって対立したが、今回の首脳会談は短期間で実現した(総統府リリースより)
蘋果日報が9日報じたアンケート調査(サンプル数511件、8日調査)によると、「会談で両岸(中台)関係に実質的な進展や成果はあったと思いますか」との質問に対して、「なかった。従来の主張を改めて述べただけ」との回答が47.51%と最も多くなった。次いで、「あった。指導者同士の会談は両岸関係の重大な突破だ」が42.72%に上ったことが、今回の会談の性格をよく表している。多くの台湾住民が「会談は首脳同士が会うことそのものが目的だった」と受け取ったようだ。
国民党寄りの聯合報によると、首脳会談での馬総統の発言などに「満足」との回答は37.1%、「不満」は33.8%だった。一方、民進党寄りの三立電視の調査では「満足」は26.9%、「不満」は34.9%と逆の結果だが、いずれの調査でも評価が2つに分かれたことが分かる。三立電視による総統選の情勢調査では、蔡英文民進党主席の支持率が46.7%と前月から5.1ポイント上昇した一方、朱立倫国民党主席は19.0%へと2.7ポイント低下と、中台首脳会談で国民党がかえって評価を下げた。
ホットライン開設で合意
首脳会談では馬総統と習主席が81秒間にわたる長い握手をして、関係改善を印象付けた。両者は「92共識」こそが中台関係の基礎であることを表明、特に習主席は「92共識と台湾独立への反対」こそが双方の政治的基礎で、これが失われれば「平和的発展の船」は荒波に遭って転覆すると警告。総統選でリードが伝えられる蔡民進党主席をけん制した。
台湾各紙の報道によると、馬総統は習主席に対し、緊急事態などへの対応のため、行政院大陸委員会(陸委会)と国務院台湾事務弁公室(国台弁)の間にホットラインを設けることを提案。習主席は「それはすぐに対応できる」と応じた。
習主席に「中華民国」提示
馬総統は会談の冒頭発言で、「92共識」を語った際、「一つの中国」を挙げつつも「それぞれの解釈」には触れず、蔡民進党主席などから強く批判された。1992年11月に中台間で合意されたとされる「92共識」は、台湾では「一つの中国、それぞれの解釈」として理解されており、「それぞれの解釈」に力点が置かれる。一方、中国は「92共識の核心は一つの中国」との立場だ。
ただ、馬総統はマスコミをシャットアウトして行った本会談では、習主席に対し「92共識」の合意内容について「海峡両岸は一つの中国の原則を堅持するが、その含意と解釈に違いがあり、口頭による声明でそれぞれが表明できる」であり、これこそが「一つの中国、それぞれの解釈」だと説明した。さらに、「『2つの中国』や『一つの中国、一つの台湾』『台湾独立』にはかかわらず、それは中華民国憲法が許さないからだ」と発言したという。聯合報は「それぞれの解釈」ばかりか、習主席の面前で中華民国の国号を提示したと意義を指摘した。
9日付蘋果日報によると、馬総統が冒頭発言で「それぞれの解釈」を持ちださなかったのは、会談の前の中台間折衝で、双方が相手側に言及してほしくない文言や表現で交渉があり、雰囲気の悪化を避けるために刺激的な文言を避けることにしたためという。
「絶対に受け入れない」
会談に対し蔡主席は、「両岸関係における人民の将来の選択に政治的な枠をはめることを狙ったもので、台湾人民は絶対に受け入れない。台湾人民と共に、民主的な方式で中台首脳会談がもたらした傷を埋めたい」と語った。
中台首脳会談は、台湾海峡の平和こそが台湾にとっての利益との世論にはアピールできたとみられ、国民党は今後総統選に向けて経済面の訴えを強めるとみられる。蔡主席にとっては、会談が改めてかき立てたであろう、中国に飲み込まれてしまうという有権者の懸念をいかにうまく取り込むかがリードを守る上で重要になる。
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