来週22日に投開票が行われる総統選挙はいよいよ終盤を迎えたが、争点は国民党の主張する両岸共同市場の是非に絞られてきた。謝長廷候補の民進党は、中国による「一つの中国の原則」の枠組みに足を踏み入れる危険な「一中市場」であると批判し、12日付聯合報によるとこのことが既に中南部の有権者に影響を与え、国民党の票の流失を招いている。積極的な対中交流の推進に伴う不安感をいかに打ち消すかが、国民党にとっては逃げ切りの鍵となりそうだ。
両岸共同市場の提唱者の蕭万長候補(右)。過去に大学での講演などで「一中市場」と発言したことがある。民進党の「一中」批判に対しては、「歪曲」と反発している
(中央社)
「男は仕事が無くなり、女はだんなが見つからない…」。現在、雲林、嘉義、台南、高雄の、台湾人意識が強い民進党の支持基盤である中南部の地下ラジオ局は、一日中「一中市場」に反対する放送を流し、こうした節回しが人々の間に広まっているという。
民進党は現在、「中国人労働者が台湾人の仕事を奪う」「中国の農産物が農民の仕事を奪う」「中国の不良品が台湾市場を席巻する」と、両岸共同市場の「弊害」を強く訴えて選挙情勢の挽回(ばんかい)を図っている。
既に一定の効果を生んでいるようで、国民党の選挙関係者によると、台南県では民進党に10万票の差を付けられ、雲林、嘉義でも3万~5万票負けている。「『反一中市場』は従来からの支持者を固める程度の効果しかない」(呉敦義同党秘書長)という見方もあるが、放っておくと票の流失が進む恐れがあるため、陣営では「台湾を裏切らない。台湾の農産品を大陸に売る」「高齢農民への年金を月6,000台湾元(約2万円)に引き上げる」など、地域の農民に対する「6大保証、4大約束」を強力に訴えて反撃している。
両岸共同市場は経済的統合
国民党の主張する両岸共同市場は、欧州連合(EU)をモデルに台湾と中国の市場統合を目指そうというものだ。
2005年5月、連戦主席(当時)は胡錦濤中国国家主席と初会談を行った後、中国に進出した台湾企業の集まりで、「最初は関税の税率低下・免税措置などで貿易障壁を取り除く。その後、人材、資金、物資など生産要素の自由流通を実現し、続いて技術、情報の移転を実現する。さらに、通貨の統一、文書、各種政見の一致を目指し、最後には経済・貿易全体の協力を目指す」と明言している。一言で言えば、中台の経済的統合の実現だ。
両岸共同市場について謝候補は、「人と金は多い所から少ない所へ流れる。台湾の賃金・所得は高く、大陸は低い。『一中市場』が実現したら、最後は必ず均等化する。台湾にとって不利だ」と訴えている。また、馬英九候補による企業の中国投資額の上限規制を撤廃するという公約に対しては、「台湾に負債を残したまま大陸に投資を行う企業もある。それを全く審査なしで投資を許可するのであれば、社会正義に背く」と批判している。
EUとは条件に大差
最大の懸念は、両岸共同市場が将来的に中国による台湾統一の第一歩となりかねないことだ。民進党寄りの自由時報は、国民党がモデルとするEUは加盟国が相互の主権を認め、平等互恵、自由、民主の共通の価値感がある一方、中台間にはそれらが全く存在しないとして、共同市場の創設は条件が整っていないと指摘している。そして、台湾は経済上の防御バリアを失うことで、共同市場を統一の手段として利用するであろう中国に好き放題にされてしまうため、経済融和は国民党の言う「特効薬」などではなく「毒薬だ」と断じている。
民進党は引き続き反「一中市場」の訴えを強めつつ、来週16日の大キャンペーンで劣勢を挽回する構えだ。民進党の訴えが有権者の危機意識を呼び起こすのか、誇大な宣伝と受け取られるかが選挙の帰趨を左右する情勢になっている。総統選挙は今回も、最後の1週間が鍵を握る見通しだ。