総統選挙の投票日まであと1週間余り。街頭を行く選挙カーから各陣営の選挙ソングがけたたましく鳴り響く昨今だが、そこからは明らかに時代の変化が読み取れる。
国民党の馬英九陣営は、かつて台湾演歌の代表曲「愛拼才会贏」で歌謡界に一大センセーションを巻き起こし、一時は無所属の立法委員も務めた葉啓田さんを起用した。
国民党の選挙ソングは今回、見事に台湾語(一部北京語や客家語の歌詞を挿入)の歌が並んだ。同党は前回2004年の総統選から台湾語の選挙ソングを増やしたが、前々回00年の総統選までいわゆる「愛国歌曲」と呼ばれる革命歌が鳴り響いていたことを考えると一大変化だ。
国民党が民進党離れを起こしつつある本省人、南部住民を意識していることが確かだが、ある意味、民進党政権下で「台湾意識」が深く根付いたことの証左でもある。
メーンの「台湾向前行」は、葉啓田さんが作詞・作曲に加わった作品で、「台湾よ進め、台湾は必ず勝つ」「手と手を取って、馬英九を支持しよう」といった歌詞で、典型的な台湾語ソングのメロディーが特徴だ。
一方、民進党は一貫して「台湾色」あふれる選挙ソングを発表してきたが、最近は若者を意識した楽曲が目立つ。これは相対的に支持基盤が弱い若年層をターゲットにする同党の選挙戦略を反映しているとも言える。
今回のメーンは「幸福台湾」という曲。謝長廷候補自身が趣味のオカリナを吹きながら作曲したもので、歌詞に北京語、台湾語、客家語、先住民語をバランス良く取り入れた。レコーディングには行政院新聞局主催の創作歌曲コンテストで優勝した王俊傑さん、「金曲奨」を受賞した客家系ミュージシャンの謝宇威さんらのほか、先住民の人たちが加わった。
このほか、演歌系ではサビの部分に「カモメ、カモメ…」と日本語が登場する「快楽的出航」も採用された。この曲は昭和30年代に職業歌謡を売り物にした曽根史郎さんが歌った「初めての出航」のカバー曲で、港町高雄の市長を務めた謝候補のイメージにぴったりだ。
選挙ソングを収録したCDは選挙事務所や選挙集会などで販売または配布されている。インターネットでも試聴できるので、台湾の選挙文化を味わってみてはどうだろうか。
(ジャーナリスト宮城英二=ワイズニュース特約)