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ASEのSPIL買収、紫光集団が中国政府に介入要求


ニュース 電子 作成日:2015年12月28日_記事番号:T00061210

ASEのSPIL買収、紫光集団が中国政府に介入要求

 半導体パッケージング・テスティング(封止・検査)最大手、日月光半導体製造(ASE)が同業の矽品精密工業(SPIL)に対し完全買収を提案したことを受け、中国の国有半導体大手、紫光集団の趙偉国董事長はこのほど、中国工業信息化部(工信部)に対し、ASEがSPILを買収すれば台湾での封止・検査シェアが56%に達し、中国反壟断法(独占禁止法)に違反するとして、ASEの買収を阻止すべく介入するよう求めた。紫光集団はSPILへの24.9%出資を表明しており、実現に向けてASEによる買収を阻止したい構えだが、中国政府に台湾産業界への圧力を求めたことは、紫光集団に対する台湾社会の反発を強める逆効果を生みそうだ。消息筋の情報として28日付経済日報が報じた。


工信部は中国の独占禁止法の運用を管轄する機関ではないが、業界では、趙董事長(左2)の動きは、台湾半導体業界取り込みに向けた強い意志の表れとみている(紫光集団リリースより)

 紫光集団は今月11日、1株当たり55台湾元(約200円)でSPIL株24.9%を取得すると発表。これを受け、9月に株式公開買付(TOB)でSPIL株24.99%を取得し筆頭株主となったASEは14日、同じく1株55元での完全買収を提案。紫光集団のSPIL出資計画は立法院が18日に決議の形で当面阻止したが、ASEは世界首位の座を固めるために22日、あす29日からSPILに対する2度目のTOBを実施し、出資比率を49.71%に引き上げると発表。さらにSPILに対し、来年1月28日の臨時株主総会までに紫光集団からの出資受け入れ計画を撤回しなければ、100%の株式取得に向けた行動に移ると表明した。SPILはきょう28日の董事会でASEによる完全買収の提案について話し合うが、業界ではほぼ拒否するとみられている。

 消息筋によると、紫光集団の趙董事長は工信部に対し、ASEがSPILを買収すれば特にハイエンドのフリップチップパッケージ市場で世界シェアが8割を超え、中国半導体産業の垂直統合に不利なため、中国政府が全力でASEのSPIL買収を阻止する必要があると訴えたという。中国の独占禁止法の規定によると、単一事業者の関連市場シェアが50%に達している場合、中国市場で支配的地位を有すると認定される。

「ASEに不利の可能性」

 中国では独占禁止法が2008年8月に施行されて以降、これまでに約860件が審査対象となり、業種は液晶パネル、粉ミルク、自動車、医薬品、医療機器など多岐にわたり、マイクロソフトやクアルコム、ベンツ、アウディなど多くの外資系企業が標的にされてきた。中国が独占禁止法の運用を強化する中、最近は申告受理件数や立案件数などが大幅に増えており、経済日報は、趙董事長が独占禁止法違反を理由に工信部に働き掛けたことが事実であれば、ASEはSPIL買収で不利な立場に立たされる可能性があると指摘している。

半導体喪失で失業22万人

 紫光集団はSPILのほかに、封止・検査台湾4位の南茂科技(チップモス・テクノロジーズ)への約25%出資、半導体メモリーの封止・検査大手、力成科技(パワーテック・テクノロジー、PTI)の株式25%取得も表明していた。IC設計最大手の聯発科技(メディアテック)の買収にも意欲をみせており、矢継ぎ早の出資攻勢に台湾社会は警戒感を強め、立法院は18日、紫光集団の台湾3社出資計画と中国資本の台湾IC設計投資の開放を当面禁止する異例の決議を行った。これは半導体産業が台湾経済に欠かせない成長エンジンであることを物語っている。

 経済部の統計によると、台湾半導体産業の2014年生産額は2兆1,000億元で、台湾製造業の16%を占めた。IC製造の世界シェアは73%、IC封止・検査は51.6%でそれぞれ首位、IC設計は18.9%で世界2位だ。

 また、半導体産業は輸出額の4分の1を占める。台湾経済研究院(台経院)の劉佩真副研究員は「台湾は昨年の物品貿易で7,000億元の黒字だったが、半導体産業の黒字1兆元がなければ3,000億元の赤字だった」と説明した。

 さらに、昨年の台湾半導体産業の就業者数は22万2,000人で、経常性給与(賞与、残業手当などを含まない)は月平均6万9,319元と工業・サービス業の平均3万8,208元の約1.8倍だ。台湾から半導体産業がなくなれば、台湾の家計から毎月150億元以上の収入がなくなる計算で、個人消費への影響は計り知れない。