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「一つの中国」、チベット騒乱で焦点に


ニュース 政治 作成日:2008年3月19日_記事番号:T00006217

「一つの中国」、チベット騒乱で焦点に

 
 中国チベット自治区での騒乱事件が、総統選挙の大きな変数になる可能性が出てきた。民進党の謝長廷候補選挙対策本部は18日、「チベットが武力弾圧に直面した悲劇は、一つの中国の原則による必然的結果だ」とした上で、国民党の馬英九候補が「台湾の前途は両岸(中台)人民が共同で決定すべきだ」と主張していると非難。「『一つの中国市場』反対」の経済も含んだ争点から、投票日直前で「一つの中国」そのものに焦点を絞ろうという、謝陣営の選挙戦術も見え隠れする。
 
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民進党の謝長廷候補選対前で、チベットでの武力鎮圧に抗議し「人権の火」に点火する羅文嘉・選対戦略会議執行長、葉菊蘭・総統府秘書長、チベット人運動家のザーシーさん(中央の3人、左から)(18日=YSN)

 台湾の有権者に波紋を呼んでいるのは、チベット情勢に関する18日の温家宝中国首相の記者会見での発言だ。温首相は、「チベット問題と台湾問題は、ともに中国の統一と主権、領土完成の問題にかかわる」と、チベットと台湾を並べて指摘。台湾の住民投票について、「成立すれば、大陸と台湾が一つの中国に属しているという現状を変更し、台湾海峡とアジア太平洋地域の平和を破壊する」と非難した。強い口調は、2000年の総統選挙当時の「陳水扁が当選したら戦争だ」という朱鎔基首相の恫喝を思い起こさせた。

 温首相はさらに、「中国の主権と領土完成にかかわることは、台湾人民を含む全中国人民で決定されなければならない。台湾を祖国から分裂させるいかなる企みも必ず失敗する」と従来の立場を強調した。

「統一を放棄せよ」

 温首相の発言に対し、馬候補は「北京五輪をボイコットする可能性もある」と発言。従来の柔軟なイメージとは異なる強硬発言は驚きをもって迎えられた。

 これに対し謝候補は、「あまりに早く反応すると、台湾の権利を犠牲にする」と注文を付けた上で、「馬候補と温首相は、共に台湾の前途は両岸が共同で決めなければならないという立場で、一つの中国と最終的な統一、両岸共同市場を主張している」と批判した。さらに、「我々と同じ立場であれば、最終的な統一と一中市場の主張を放棄すべきで、そうすれば中国に対して最大のプレッシャーを掛けられる」と迫った。

 馬候補は05年12月、米ニューズウィークに対し、「国民党の最終的な目標は統一」と語っている。06年2月には英BBCに対し、「国民党は大陸と統一問題で協議することを排除しない。しかし現在は統一の条件が整っていない。時期が熟せば、両岸の人民で決定すべきだ」と指摘しており、謝候補の指摘は的外れの非難とは言えない。しかし、馬候補は今回の選挙では、「台湾の前途は2,300万人の台湾人民で決定されなければならない。大陸の関与は許されない」と、従来のスタンスを転換し、民進党が99年に採択した「台湾の前途に関する決議文」とほとんど同じ立場を表明している。

「温家宝からビンタ食らう」
 
 馬候補は18日夜、謝候補の呼び掛けに対し、「チベット問題と台湾問題は関係がない。チベット人民の人権と文化の問題が焦点であり、テーマをそらさないことを希望する」とコメントした。また、台北市の台湾民主紀念館で開かれたチベットの弾圧犠牲者のために祈りをささげる催しに足を運んだ際、「チベットは独立すべきではないか?」というチベット人参加者からの質問には回答を避けた。台湾独立に明確に反対している馬候補だが、今この状況で「チベット独立を支持しない」という論理を展開するのは困難とみられる。

 チベット事件がクローズアップした「一つの中国」問題で、馬候補は明らかに守勢に回ってしまった。19日付自由時報は現在の馬候補について、「温家宝にビンタを食らったに等しい」という論評を掲載した。民進党は19日夜に台北市内でチベットへの声援と「一つの中国」政策への反対を表明する集会を開き、この問題でさらに追撃を図る構えだ。

選挙広告に危機感

 19日の日刊各紙に折り込まれた国民党立法院党団の広告には、「馬英九と蕭万長を救え」という文字が踊った。「救え」を意味する中国語の「搶救」は、落選の恐れがある時に有権者に支持を求めるために使うのが一般的で、陣営の危機感の高まりを物語っている。選挙情勢はさらに緊迫の度合いを増してきたようだ。