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「両岸共同市場の実現は困難」              =中嶋嶺雄・国際教養大学学長


ニュース 政治 作成日:2008年3月23日_記事番号:T00006291

「両岸共同市場の実現は困難」              =中嶋嶺雄・国際教養大学学長


 馬英九国民党候補の当選によって、中台関係は果たして改善に向かうのか。馬候補の公約である「両岸共同市場」の展望などについて、ワイズニュースは国際政治学者の中嶋嶺雄国際教養大学学長に話を聞いた。
T000062911

中嶋嶺雄国際教養大学学長
 
──台湾の有権者は両岸共同市場、すなわち中台の経済交流拡大による効果に相当の期待を持っているようです。
 
 中国は農村と都市などの経済格差が依然深刻で、まだ未成熟な社会を何とかまとめようとしている段階だ。一方台湾は、民主化が進んでおり、社会もはるかに成熟している。現段階では、中華人民共和国にせよ、「中華」という名称にせよ、統一の方向に向かうことは不可能だ。

 国民党も台湾の民衆もこの現状に対して認識が薄く、両岸市場に非常に期待を持っているようだが、実際には実現は困難だ。両岸市場への期待が、馬英九次期総統の当選につながったのであれば残念だ。

 馬次期総統がいかに両岸関係を改善しようとしても、中国による台湾統一戦略に利用される恐れがあるため、国民党は与党としてしっかり気を引き締めていく必要がある。

 中台の直航便や中国人観光客の来台開放についても、中国はあわよくば「台湾を飲み込もう」と考えているのだから、台湾は慎重なスタンスを保ち、一定の制限を設けなくてはならない。

──馬氏は「一つの中国、それぞれの解釈」という立場で、中台交流に取り組もうとすると予想されます。
 
 中国にとって、馬次期総統は民進党や李登輝前総統と違い、自分の土俵に誘い込みやすい存在といえるが、国民党の言う「一つの中国、それぞれの解釈」と、中国の「一つの中国」の考えは異なるので、中長期的には協議の破たんが予想される。

 馬次期総統も台湾語で選挙演説を行うなど、台湾アイデンティティは高まりつつある。このため、基本的な協議は進展するだろうが、根本的には限界がある。

──馬氏は選挙期間中、中国と平和協定を結ぶ考えを示し、有権者の賛同を得ました。
 
 中国は「中華民国」を認めておらず、「中華民国」と「中華人民共和国」の名称で平和協定を締結することは難しい。このため、警戒心に基づいた戦略的な対中政策が必要だ。中華民国の枠組みと台湾アイデンティティーに立脚した、李登輝前総統時代の対中姿勢が参考になると思われる。

──対日・対米関係にはどのような影響がありますか?
 
 対日関係にはそんなに大きな変化はないが、日本の国民レベルでは、李登輝、陳水扁の20年続いた台湾出身の総統のイメージが強く、しっくりしないイメージを持つケースも増えるのではないか。対米関係は、馬次期総統は米国留学経験もあり、ほとんど米国と関係を持っていなかった陳前総統時代より改善されるはずだ。
 


中嶋嶺雄
(国際教養大学学長)


現代中国政治を中心とした国際政治学者。東京外国語大学外国語学部中国科、東京大学大学院社会学研究科国際関係論修士・博士課程修了。著書に『米中新戦争――暴走する中国、封じ込めるアメリカ』(ビジネス社、06年)など