国民党の馬英九候補が221万票という大差で民進党の謝長廷候補を下した結果に対し、台湾各紙は民主化が深化し、争点がこれまでの統一・独立問題や、外省人・本省人といった族群(エスニックグループ)の対立から、政府の実績へと移行したという論調で報じた。
「民進党失政と国民党本土化が勝因」
=中国時報
国民党寄りの中国時報は、今回の民進党の敗因に陳水扁政権の「中道路線から独立路線への転換」および「権力の腐敗」の2点を挙げた。まず、陳総統が当選時に掲げた中道路線を忘れ、台湾独立を掲げる民進党の基本イデオロギーに傾き、多数の有権者の声を無視し続けたと批判し、中台関係が一向に融和に向かわず、諸々の経済政策も全く効果がなかったと断じた。さらに陳総統一家の汚職疑惑をはじめとする権力の腐敗や閣僚の失言などにより、民進党からの有権者離れがさらに進んだと分析した。
その上で国民党の勝因について、陳政権の失政に加え、国民党の本土路線、馬候補のクリーンなイメージにあると論じた。国民党は2回連続で総統選に敗れた後、党の憲章から統一の文字を消し、台湾の文字を盛り込むなど「本土化路線」へと転換し、馬候補も1947年に起きた国民党による住民弾圧事件「228事件」への追悼を毎年行ったり、土着意識の強い台湾中南部で「ロングステイ」を行うなど、同党にまつわる「外来政権」のイメージ一掃に努めた。さらに最も鍵となった勝因として、政敵でさえも認める馬候補のクリーンなイメージを挙げ、陳政権のダーディーなイメージに対し強烈な対比となって有権者に映ったと評した。
「有権者は『分裂政府』を忌避」=聯合報
同じく国民党寄りの聯合報も、「最大の罪人は陳水扁」と報じて、陳政権の失政を最大の要因と挙げた。また、これまでの「国民党の権威」、「民進党の本土意識」といった枠組みが壊れ、台湾は政治上の実績が投票の決定材料となる、成熟した民主国家となったとの見方を示した。
同紙社説は、総統選の勝敗は1月12日の立法委員選挙で民進党が惨敗を喫した時点で決まっていたとして、謝候補が選挙期間中に「陳水扁の時代は終わった」と陳総統と距離を置く発言を行ったが、有権者は「民進党の時代が終わったのでは?」という認識だったと論評した。
民進党に対しては、「正名運動や制憲運動などで対立をあおるような政策をまだ続けるのか?」と路線転換を促した。国民党が立法委員選挙で3分の2以上の議席を獲得し、第1党の権力が大きすぎてブレーキが働かないという「巨大与党」問題も民進党からの攻撃材料となったが、有権者は少数派政党の総統が政権を運営し、「分裂政府」を招くことの弊害がより大きいと判断したと論じた。
「馬候補の公約履行を注視」=自由時報
一方民進党よりの自由時報は、かつて権威主義的な統治を行った国民党の候補で、しかも香港生まれの馬候補が民主的な手続きで政権を獲得したことに対し、台湾の有権者はもはや外省人・本省人といった枠組みにとらわれないほどに民主化が進んだという認識を示した。その上で、直接選挙制になって初めて外省人である馬候補を有権者が選んだのは、馬候補が選挙期間中「台湾の前途は台湾人が決定する」、「任期内に中台統一は持ち出さない」など台湾の利益優先を強調したことが大きいと分析し、有権者はこれを公約と受け止め、その発言と行動を注視していくと注文を付けた。
「経済重視がアジアの趨勢」=経済日報
経済紙、工商時報は、国民党の主張する「両岸共同市場」について、謝候補陣営が、中国による統一戦略に利用されるであろう危険な「一中市場」であると攻撃を加えたが、その効果は中南部の農民など限定的な範囲にとどまり、広がりを見せなかったばかりか、「ネガティブ・キャンペーン」に対する反感を引き起こしたと評した。
一方、経済日報は、昨年末の韓国大統領選に続き、タイ、マレーシアの総選挙でも、与党が経済政策重視を打ち出す野党に敗北するケースが続いており、台湾も例外ではなかったとの見方を示した。民進党陣営の打ち出す国家アイデンティティーや正名運動などのイデオロギー路線に対し、「経済成長率6%、1人当たりの国民所得3万米ドル、失業率3%以下」の「633公約」、中台直航便開放や中国への投資制限の緩和など、馬候補の経済政策重視の姿勢が勝因となったと分析した。