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《蔡英文総統就任》蔡英文氏が総統就任、「一つの中国」に言及せず


ニュース 政治 作成日:2016年5月20日_記事番号:T00064247

《蔡英文総統就任》蔡英文氏が総統就任、「一つの中国」に言及せず

 民進党の蔡英文主席(59)が20日、中華民国第14期総統に就任した。総統直接選挙導入以降で3度目の政権交代で、民進党は初めて多数与党として政権運営を担う。また、蔡氏は台湾初の女性総統となった。就任演説では注目の中台関係について、「1992年の中台対話の歴史的事実を認め、中華民国の現行の憲法体制の下、過去20年間の交流の成果と台湾の民意を基礎に推進する」と表明し、中国側に善意に基づく対話を呼び掛けた。ただ、中国が期待した「一つの中国」への言及はなく、中台間の公的交流の中断は確実な情勢となった。

/date/2016/05/20/00tsai_2.jpg晴れ渡った空の下、就任演説を行う蔡総統。中台関係、経済構造改革、社会的分配の改善、若者の賃金・就業、高齢化、エネルギー問題など、いずれも困難な課題が行く手に待ち受ける(20日=中央社)

 就任演説に先立って、蔡総統の就任式が午前9時から総統府で行われた。蔡氏は蘇嘉全立法院長より総統の印章などを受け取った後、「憲法を順守して職務に尽くし、人民の福祉を増進し国家を保衛し、人民の付託に背かない」という就任の宣誓を行った。

 この後、馬英九前総統の歓送が行われ、馬前総統は就任式に参加した名士や総統府の職員らと握手して、8年を過ごした総統府を後にした。

「92年会談は求同存異」

 蔡総統は就任演説で、馬政権が「一つの中国、それぞれの解釈」で中台が共通認識に達したとしていた1992年の中台会談について、会談そのものと「同じ点を求めて異なる点は残す(求同存異)」という共通の認知が得られたことを歴史的事実として挙げ、尊重する姿勢を示した。そして、過去20年以上にわたる交流の成果は大切にすべきで、これを基礎に中台関係の平和的発展を推進するとして、過去のしがらみを捨てて双方の人民に幸福をもたらそうと中国側に訴えた。

 蔡総統は馬政権の対中傾斜を懸念した民意を背景に当選しており、「92年の共通認識」や「一つの中国」には言及しないと事前に観測されていたため、中台関係をめぐる発言は予想の範囲内だった。ただ、中華民国体制から逸脱しないことを表明、「脱中国化」や台湾独自の主権強化といった主張は盛り込まないなど、抑制した演説内容で中国や米国に配慮した。

 しかし、中国は「一つの中国」の表明を交流継続の条件に挙げて、蔡総統の就任に先立って訪台観光客の削減や、農産物の調達取りやめなど圧力をかけていた。今回蔡総統が「一つの中国」に言及しなかったことで、中台関係のさらなる悪化は不可避となった。

「経済構造の転換推進」

 蔡総統は台湾経済に関して、旧来の受託生産モデルはボトルネックに突き当たっているとして、構造転換を推進し、発展のための新たなモデルを生み出すと決意を示した。2国間協定や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)加盟を推進し、東南アジア市場を開拓する新南向政策に注力することで、単一市場に頼ってきた従来の手法と決別すると語った。

 さらに、台湾経済の競争力を高めるため、5大イノベーション新研究開発(R&D)計画を優先的に推進すると表明。給与水準の上昇と経済発展をともに実現したいと訴えた。

転型正義の報告書、3年以内に

 蔡総統はまた、社会的公平と正義を実現すると約束。国民党一党独裁時代に行われた不正や人権侵害の被害回復を目指す「転型正義」について、3年以内に調査報告書をまとめ、真相究明と責任を明確化する作業を行い、社会的正義と和解を実現して、今後の台湾が共に前に進む原動力にしようと訴えた。

日米・欧州と交流深化

 地域の安定については、台湾は地域の平和を安定させる役割を果たすと表明。尖閣諸島(台湾名・釣魚台列嶼)のある東シナ海、南シナ海問題では争議を棚上げして共同開発を呼び掛けると表明した。

 国際関係では、米国、日本、欧州などの友好関係にある民主主義国家と関係を深め、共通の価値を土台に全方位外交を展開すると語った。