台北市の老舗ホテルで、中国人観光客の商機をにらんで、大規模なリニューアルブームが起きている。商業誌「今週刊」の最新592号によると、リニューアルを行ったのは30軒以上に上り、よく利用されるとみられる中価格層が最も積極的だ。しかし、中国人観光客という新市場は、本当に期待するほどの大きな商機に成長するのか疑問の声も根強くある。
新装の丹迪旅店。周囲がくすんだ建物ばかりの中でひときわ目を引く(YSN)
1960年に開業した天津街の「王子飯店」は、当時、市内で数少ない外国人を受け入れる観光ホテルで、蒋経国総統や和信集団の辜振甫氏ら大物も訪れる高い格式を誇っていた。最近は老朽化が進み知名度も低下していたが、このほど北欧風の白さもまぶしい「丹迪旅店(ダンディーホテル)」として、全く新しく生まれ変わった。
同ホテルの経営権を取得した戴彰紀氏は、2005年に1億7,000万台湾元(約5億8,000万円)をかけ長安東路一段にビジネスホテルの「喜瑞飯店」をオープンさせて以来、「新駅旅店」(懐寧街)、「新尚旅店」(信義路二段)、そして今回の丹迪と、次々に古いホテルを再生させてきた。
戴氏はその目的について、「中国人観光客のビジネスチャンスをつかむためだ」と断言する。この2年間に拠点開拓を急いだのは、「中国人に対する来台規制がいつまでも続くわけがない」と考えたことが理由だ。これらのホテルはすべて租借しての経営で、本来用地にかかるコストを内装に注ぎ込み、高級感を醸し出させた。 「京都旅館」を経営する徐銀樹台北市旅館商業同業公会理事長によると、台北市内288軒の一般ホテル(観光ホテルを除く)のうち、この2年で30件以上が中国人商機をあてこんで外観を含めた大規模リニューアルを行ったという。
中国人観光客の消費水準から、4つ星、5つ星クラスのホテルの需要は決して多くなく、「2人1部屋、1泊2,400元」クラスの中価格ホテルが、最も商機の恩恵を受けると予想されている。
「素行」に不安
こうした準備を進めているホテルのオーナーたちに、「今後は中国人観光客をメイン顧客とするのか」という質問をすると、意外にも「それはない」という答えが返ってくる。期待の一方で、中国人観光客の「素行」の影響を心配しているためだ。
昨年末に台北駅前にオープンしたある低価格のビジネスホテルの経営者は、受け入れた中国人の団体客が、隣の部屋同士でドアを開け放して大声でしゃべり合っている光景に驚いた。彼らが出て行った後、浴室の衛生用品はすべて持ち去られていた。枕が持って行かれたこともあり、他のホテルでも廊下に飾ってあった花瓶を持ち逃げされ、やむなく監視カメラを取り付けたところがある。
また、中国人団体客を受け入れたことで、常連だった日本人客3人が、利用をやめてしまったケースもあるという。このホテルは日本人と中国人を別々の階に分けるようにした。
なお、長春路のあるホテルは、中国人観光客への期待から、今年初めに1部屋1泊1,600元だった団体ツアーの宿泊料金を100元値上げした。しかし、最近は元の価格に戻しており、このことから、商機は言いはやされているほどのものではないのではないという推測も成り立つ。これがまさに、リニューアルを行ったホテルのオーナーたちが最も懸念している点だ。