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鴻海の米国大型投資、台湾空洞化に懸念の声


ニュース 電子 作成日:2017年7月28日_記事番号:T00071935

鴻海の米国大型投資、台湾空洞化に懸念の声

 鴻海精密工業が外資として米国史上最大規模となる100億米ドルの液晶パネル工場投資計画を発表したことを受けて、財政部の蘇建栄政務次長は27日、パネル産業のサプライチェーンごと米国に移転すれば台湾の輸出総額に打撃を与えると懸念を示し、鴻海に対し台湾投資の強化を呼び掛けた。ただ、郭台銘(テリー・ゴウ)董事長はこれまで何度も、行政効率など台湾の投資環境に不満を表明している。中華民国全国工業総会(工総、CNFI)の蔡練生秘書長は、投資環境のせいで企業の海外流出が進めば、産業空洞化が起こると警告した。28日付経済日報などが報じた。

/date/2017/07/28/00top_2.jpg郭台銘(テリー・ゴウ)董事長(左)は、ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事(右)ほど企業誘致に積極的な首長は初めてだと語った(28日=中央社)

猶予は3年

 財政部は2、メディアとの懇親会を開き、鴻海の米国投資に関する見解を示した。

 経済部工業局は、台湾のフラットパネルディスプレイ(FPD)産業のサプライチェーンは川上、川中、川下まで構築されており、さまざまな市場の要望に応えられ、多様な技術のトータルソリューションを提供できるので、鴻海の米国投資がすぐに台湾パネル産業に影響を及ぼすことはないとの見方だ。

 財政部は、鴻海が投資を実行する2020年まで台湾の輸出に影響はないが、その後は鴻海が米国で新たにサプライチェーンを形成するかによると指摘した。

 鴻海のウィスコンシン州でのパネル工場はシャープが主導し、鴻海グループの▽自動化設備の京鼎精密科技(フォックスセミコン)▽産業用コンピューターの樺漢科技(エノコン)▽液晶テレビ機構部品の乙盛精密工業(ESON)▽LED(発光ダイオード)の栄創能源科技(アドバンスト・オプトエレクトロニック・テクノロジー、AOT)──などが先発部隊とみられている。

 工総の蔡秘書長は、鴻海のようなグローバル企業の世界展開は好ましいことだが、もし台湾に失望しての判断なら、産業空洞化が現実味を帯びると懸念を示した。

 鴻海のほか、これまでに台塑集団(台湾プラスチックグループ)、台湾中油(中油、CPC)、義聯集団(Eユナイテッド・グループ)が米国投資を表明している。米国の強い誘致のほか、厳しい環境影響評価(環境アセスメント)など台湾の投資環境がその理由だ。

8Kテレビ買替商機

 鴻海は台湾時間28日、8K液晶パネル工場設置に向け、ウィスコンシン州と覚書(MOU)を締結した。シリコンバレーにちなんで「ウィスコンシンバレー」と命名し、就業機会3,000~1万3,000件を創出する見込みだ。

 IHSマークイットの謝勤益(デビッド・シェイ)シニアディレクターは、パネル、モジュールから完成品までの一貫生産で、年間5,000万台規模の北米テレビ市場に挑むと予測した。また、米国にはパネル工場が存在しなかったため、サプライチェーンを一から整備しなければならず、難易度は高いと指摘した。第10.5世代工場はガラス基板最大手のコーニングや露光装置のニコンの投資意欲が鍵となるとみている。後工程のバックライトやモジュール(LCM)のサプライチェーンはメキシコにあり、同地から調達するのか、または新たなサプライチェーンを立ち上げるのか、鴻海の対応が注目される。

 業界関係者は、パネルメーカー大手は目下、中国、台湾、韓国、日本に集中しているので、鴻海は米国で偏光板やカラーフィルターなどの調達が課題になると指摘した。一方で、今年は4Kテレビが価格下落でミドル~ハイエンド製品の主流モデルとなり、普及率が30%を超える見通しで、鴻海の米国8Kパネル工場が完成する予定の20年はちょうど、ハイエンドの8Kテレビへの買い替えの時期に当たると好感している。

 市場では、鴻海はウィスコンシン州で第10.5世代パネル生産ラインを設置し、60~70インチの液晶テレビを生産するとみられている。鴻海は米ビジオ(VIZIO)、ソニーなど顧客の他、傘下のシャープの米国販売を強化する考えだが、シャープのテレビは20年まで海信集団(ハイセンスグループ)に対する米国などでのライセンス供与の契約があり、使用差し止めを求めた訴訟中のため、量産は20年以降になるとの見方もある。

人材確保も課題

 米メディアのWIRED(ワイアード)は、鴻海が雇用するのは自動車や鉄鋼などの地場産業で失業したワーカーではなく、高い技能を持つハイテク製造業の人材なので非常に数が少なく、鴻海が技能訓練を施す必要があると指摘した。

 鴻海がウィスコンシン州で雇用する労働者の年収は5万3,875米ドル以上との条件があるようだ。また、鴻海は中国でロボット導入によって既に労働力4万人分を代替しており、ウィスコンシン州でいつまで3,000~1万3,000人をそうした待遇で雇用し続けられるのか疑問だとする専門家の声もある。

 またWIREDは、もしメードインUSAのiPhoneを作るために、中国沿海部にあるような組み立て生産ラインを米国に構築すれば、人件費が高い分、iPhone販売価格は跳ね上がると指摘した。