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原発再稼働を産業界が直言、電力不足に危機感


ニュース 公益 作成日:2017年8月14日_記事番号:T00072264

原発再稼働を産業界が直言、電力不足に危機感

 中華民国工商協進会(CNAIC)の林伯豊理事長は11日、蔡英文総統を訪問し、電力供給が逼迫(ひっぱく)しており、第1原発(新北市石門区)1号機と第2原発(同市万里区)2号機を再稼働し、第4原発(同市貢寮区)の建設再開を検討するよう提言した。蔡総統は、第4原発は選択肢でなく、2025年の脱原発目標に変更はないと表明した。電力の安定供給を最重要課題と考える産業界と、脱原発の理想を追求する蔡政権との温度差が浮き彫りになった形で、台湾は脱原発の推進過程において電力不足対策に悩み苦しむ日々が続きそうだ。14日付経済日報などが報じた。

/date/2017/08/14/00CNAIC_2.jpg林理事長は、われわれは今回の電力不足が天災だとは思っていないと強調。手法によっては十分な電力供給を確保できたはずとの思いをにじませた(11日=中央社)

 林理事長は会見後、蔡総統は原発再稼働を検討する条件として▽他に方法がない▽安全に懸念がない▽社会の合意が得られている──を挙げ、電力不足なら原発も選択肢の一つという意味に取れたと話した。

 しかし、総統府は同日午後、蔡総統はそうした発言は行っていないと反論した。蔡総統はあいさつの中で、政府はあらゆる方法で電力の安定供給に尽力するが、第4原発は現在も将来も選択肢でなく、一度のトラブルで脱原発目標を諦めることはないとの説明を行ったという。つまり、蔡総統は第1・第2原発の発電機再稼働については、直接回答しなかったことになる。

第4原発を稼働させないことは従来の立場を繰り返したにすぎず、第1・第2原発の稼働を再開せよとの林理事長の直言に対してはどのような考えを持っているのかは分からない。ただ、「今こそが原発の再稼働が必要な緊急時」と考える産業界の焦燥感に回答しなかったことに変わりはない。

 総統府の発表を受け林理事長は、産業界は電力が不足しない限り、原発に対して意見はないと表現を改めた。その上で、電力は本当に不足しているため、政府は問題に向き合ってほしいと改めて呼び掛けた。なお、林理事長は「脱原発は段階的に進めなければならない」と話しており、脱原発に反対しているわけではなく、電力不足が起きないように進めてほしいという立場だ。

 中華民国全国工業総会(工総、CNFI)も、電力供給の緊張状態が続く場合、企業の海外流出などの影響が必ず出ると指摘した。

 13日は日曜日ながら台湾電力(台電、TPC)のピーク時電力使用量は3,641万キロワット(kW)と過去最高を更新し、「電力供給制限警戒」を示す赤信号が点灯した。赤信号は今年3回目で、供給予備率は1.77%と過去3番目に低くなった。ただ、台風で倒壊した和平火力発電所の送電塔の修復がきょう14日に完了し、電力供給量は回復する見込みだ。

第3LNG基地、年内着工に全力

 25年の脱原発で、電源別発電電力量構成比は、天然ガス(LNG)火力発電が5割で最大となり、17~25年にかけ発電機を増設する計画の台湾電力(台電、TPC)の大潭天然ガス(LNG)火力発電所(桃園市観音区)が主力となる。ただ、大潭火力発電所にLNGを供給予定の台湾中油(中油、CPC)の第3LNG受け入れ基地(観塘工業区)は着工が遅延しており、このままでは20年に電力不足に陥るとの懸念が高まっている。

 着工遅延は、行政院環境保護署(環保署)専案小組(小委員会)の環境影響差異分析報告の審査が通らなかったためで、追加書類の提出期限は9月末だ。林聖忠CPC董事長は、指示通り追加書類を提出すると述べた。

 林全行政院長はこの問題を非常に重視しており、年内に必ず着工させるため、対策会議を開いたとされる。

発電コスト、今年35億元増

 脱原発のもう一つの代償は、電気料金の上昇だ。

 TPCの予測によると、今年の第1~3原発の発電量は205億kWと、昨年より約100億kW減る見通しだ。原発代替の天然ガス(LNG)火力発電コストは1kW当たり2.18台湾元と原発より0.35元高いため、全体の発電コストは今年35億元(約126億円)増える計算だ。これにより、家庭用電力料金は年間60元、工場やホテル、スーパーマーケットなどは年間7,000元増える。

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廃炉、総額4千億元に

 経済部の楊偉甫次長は、TPCは原発の廃炉に向け、海外から技術を導入し、担当者の教育を開始していると説明した。第1~3原発の解体には700億元、放射性廃棄物の処理などを合わせれば、総額4,000億元以上かかると述べた。建設コストが2,838億元に上ったため、海外への設備売却などで損失を減らしたい考えだ。

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