馬英九総統が当選後、新政権への提言を求めるために行った台湾各界の重要人物との面談で、最初に選んだのが李登輝元総統だった。
馬総統はかつての李元総統の下で、行政院大陸委員会副主任委員や法務部長を務めたことがある。一方、李元総統は2000年の退任後、本土派政党、台湾団結聯盟(台聯)を組織し(役職には就かず)、民間の立場から台湾正名運動などを推進し、国民党とはイデオロギー上でたもとを分かった。今回の総統選でも、李元総統は最終盤で民進党の謝長廷候補への支持を表明していた。
李元総統は、台湾の本土化推進に大きな役割を果たし、退任後8年たった今でも世論への一定の影響力を持つ。「世論の最大公約数の基盤拡大」による政権安定を目指す馬総統が最初に会う人物として李元総統をに選んだのは、非国民党の本土派を重視する姿勢の表明といえよう。「遠見」のインタビューに対し李元総統は、民進党政権に厳しい評価を下す一方、国民党への政権交代に概ね好意的な見解を表明した。
遠見のインタビューでは報じられていないが、李登輝元総統は馬英九氏に対し、中台間の「1992年の共通認識」は全く存在しないと注意を促している(中央社)。
──今回の政権交代をどう見ますか?
李登輝:陳水扁政権の8年は、成果が見えなかった。過去の施政の成果を引き継いだだけで、高速鉄道も彼(陳水扁)がやったわけではない。大陸(中国)に対しても政策がなかった。
台湾は総統と行政院長の双首長制を採用している。しかしこの8年は、あらゆることを1人で決定する古代の皇帝のように彼の発言がすべてで、民主の精神に背いていた。民主化の過程においては司法、教育、経済などの制度改革が必要なのだが、何もなされなかった。
今回の政権交代は民衆の選択だ。今は貧しい人が多くなっている。昨年の1人当たりの国民所得は1万6,000米ドルで、12年で3,000米ドルしか増えていないが物価は上がった。民衆が政権を交代させたいと考えたのだ。これは民主化の成果だ。
中台は政府間接触の時期に
──馬氏が会いに来たとき、何を話しましたか?
李登輝:まず、高得票での当選におめでとうと言った。彼が中南部で行ったロングステイも称賛した。ロングステイは彼が当選できた大きな要因だろう。田舎の人はいままで彼のことを知らなかった。ルックスが良いとか、短パン姿は知っていても、何をする人なのか分かっていなかったし、彼も田舎の人の生活を知らなかった。ロングステイには賛成だ。政治家は庶民の生活を知らなければならない。
──新政権の両岸(中台)政策はどのようにすべきですか?
李登輝:両岸は政府間の接触を行うべき時期に来ていると考えている。大陸の政策は変化し、今はもう江沢民時代のような、台湾を食ってやろうというものではない。これは、蒋介石や蒋経国、私が総統を務めていた時の状況とも異なる。
台湾は大陸に対し、外国政府への対応をモデルにすべきだ。貿易問題は世界貿易機関(WTO)の枠組みの下で処理できる。人民元の台湾での両替は米ドル・日本円に倣えばよく、大陸の観光客来台も一般の外国観光客に倣えばよい。
台湾企業の投資保護、大陸製タオルの対台ダンピング、台湾農産品への関税免除などすべて政府間で協議が可能で、海峡交流基金会のみをルートにしていてはだめだ。
──馬総統が両岸問題で直面する困難は何ですか?
李登輝:困難は何もない。大陸は今、1,400発のミサイルを台湾に向けているが、これは心理戦術で、本当に撃ちたいわけではない。本当に打ったらどのような結果をもたらすか、彼らはわれわれよりよく分かっている。
──両岸の平和協定締結は可能ですか?
李登輝:不可能だ。平和協定は理想で、実際には無理だ。大陸にも平和協定を考える人はいるが、胡錦濤はそう考えない。
──国民党が巨大与党になったことを懸念する声もあります。この問題をどう考えますか?
李登輝:私も巨大与党を利用して、民主改革を実行したのだ。これは彼(馬氏)にやる気があるかどうかの問題だ。台湾のために、彼はまず行動しなければならない。(何に対しても「よい」と言う)「好好先生」になってはならない。