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国民党の「母豚」失言、高雄市長選に影響も


ニュース 政治 作成日:2018年11月19日_記事番号:T00080450

国民党の「母豚」失言、高雄市長選に影響も

 統一地方選挙の焦点となっている高雄市長選で、呉敦義国民党主席が民進党の陳菊前市長(現総統府秘書長)を「母豚」に例えた失言が波紋を呼んでいる。同市では国民党の韓国瑜候補が民進党の陳其邁候補を世論調査の支持率で上回る異例の展開となっているが、失言によって陳其邁候補への投票が増え、逆転に結び付くのか否か注目されている。19日付蘋果日報などが報じた。

/date/2018/11/19/00top1_2.jpg陳其邁候補への支持を訴える陳菊前市長(中)。民進党は、陳菊前市長の人気が必ずしも陳其邁候補への支持に結び付いていないことが課題だと指摘されてきた(18日=中央社)

 呉主席は17日、高雄市での同党のイベントで「あいつはとんでもない。誰とは言わないが、丸々太った母豚のように歩くあれだ」と、陳菊前市長を連想させる言葉で批判した。

 陳菊前市長は1979年、高雄市を舞台とした民主化運動弾圧事件「美麗島事件」で逮捕され、刑務所で6年間を過ごした元民主化の闘士だ。高雄市長時代(06年~18年4月)は「花媽(漫画『あたしンち』の母に似ていることから)」の愛称で呼ばれ、市民から母親のイメージを持たれていた。その人気から、韓候補は選挙戦で陳菊氏と高雄市政の問題点への批判は一切行わず、反感を買わないよう細心の注意を払ってきた。ところが、呉主席の失言で、民進党に反撃の手掛かりを与えることになった。

 選挙戦最後の日曜日となった18日、民進党は岡山区で大型集会を開催。頼清徳行政院長、謝長廷・元高雄市長(現駐日代表)らと共に応援に駆け付けた陳菊前市長は「私は台湾人の娘であり、母豚ではない。私は尊厳と反骨精神と志を持つ台湾人の子孫だ」と演説し、「高雄人は立ち上がれ。陳菊は踏まれても構わないが、高雄は踏みにじられるべきではない」と繰り返し訴えた。呉主席の発言を高雄市民への 侮辱と位置付け、民進党支持層でありながら市政刷新を求めて韓候補への投票を考えていた有権者や、蔡英文政権の現状維持路線への不満から投票に行くことを迷っている有権者の呼び戻しを狙ったとみられる。

 陳其邁候補の選挙集会はこれまで韓候補と比べて熱気を欠いていた印象は否めなかったが、この日は用意した3万5,000個の椅子が開始前に埋まり、盛り上がりを見せた。民進党は10万人が来場したと発表した。

影響への見方分かれる

 呉主席は18日、国民党創建124周年の式典会場で、メディアの前で深く頭を下げて謝罪した。呉主席の発言に対しては、民進党陣営が一斉に非難したのはもちろん、国民党陣営も韓候補が当日夜の集会で「不適切」と指摘したのをはじめ、他の候補者たちから批判が相次いでいた。

 呉主席の失言が上げ潮ムードだった国民党陣営の勢いを止め、選挙結果を左右するか否かについて識者の見方は分かれている。

 政治大学社会学系の顧忠華教授は「失言は既に中間層に影響をもたらしている。呉主席の謝罪は効果を挙げるか分からない」と指摘した。

 一方、東華大学民族事務・発展学系の施正鋒教授は「せいぜい『呉主席は教養がない』と思われるくらいだ。民進党が残り1週間でこの問題で攻勢を掛けるのは困難だ」との見解を示した。

/date/2018/11/19/00top2_2.jpg韓候補は人身攻撃は好まないと呼び掛けつつ、明るいムードの選挙集会を演出してピンチを乗り切ることを試みた(17日=中央社)

 ちなみに韓候補は17日の集会で、自身が親中国的と批判を浴びていることに触れつつ、「清潔な選挙戦を希望する。汚い選挙戦をやるくらいなら、むしろきれいに負けた方がよい」と訴え、失言危機を逆に攻勢に利用した見事な手腕だとメディアからは高く評価された。同集会は数万人の支持者が集まって大きな盛り上がりを見せ、失言事件の影響をほとんど感じさせなかった。