●給与水準の比較
図1は労工委員会の統計資料を基に、台湾企業と日系企業との経常性月額給与を比較したものです。この分析から、日系企業の方が台湾企業よりも圧倒的に給与水準が高いことが分かります。唯一100~199人規模の企業では台湾企業の給与が日系企業のそれよりやや上回っていますが、これは以前もご紹介した通り、この規模の日系企業は製造業が多いのに対し、台湾企業は製造業以外の業種も多く存在するためと思われます。また、台湾企業では規模が大きくなるにつれ給与水準が上昇していますが、日系企業では規模と給与水準の相関性があるとはいえないことが分かります。
●専門職に対する処遇
日系企業と台湾企業の給与水準を比較したときの一番大きな特徴は専門職の給与水準です。図2を見ると明らかなように、日系企業と台湾企業との専門職の給与水準には大きな差が見られます。「日系企業は専門スキルを持つ者に高い給与を支給してない」とも言えます。コンサルタントとして日系企業の内部を深く拝見させていただいている経験から、次のような理由があると想像します。
1.日系企業は専門性の高いスキルの人をあまり採用していない。
2.ただし、日系企業で働く社員は、仕事の中から専門スキルを身に付けている。
3.専門スキルを身に付けると転職してしまう。
●学歴別初任給
図3は、初任給における日系企業と台湾企業の比較です。横軸は学歴と性別を表しています。
この分析から日系企業の初任給は台湾企業より大幅に高いことが分かります。また日系企業は学歴をあまり重視しない傾向にありますが、台湾企業では学歴により確実に差が付いていることが分かります。
また日系企業、台湾企業とも給与の男女格差が存在していることが分かります。日系企業は、高卒では女性の給与が男性より大幅に高くなっていますが、これは日系企業で高卒の男性を採用するのは「製造現場のワーカー」「建設現場の作業員」「サービス業の現場」など、肉体労働的な仕事が多いのに対し、女性は専門学校や大卒以上と同じような仕事が多いからだと想像できます。
●台湾の初任給の傾向
労工委員会の資料を基に「台湾における職種別初任給」を過去にさかのぼり調べたものが、図4の分析です。
この分析から「職種別の差は存在するものの、1998年を境に初任給の水準は横ばいに転じている」ことが分かります。
98年といえば、「アジア通貨危機」が発生した翌年です。台湾のGDP(域内総生産)成長率もそれまでの6%以上から98年は4.3%に落ちました。
当時「アジア通貨危機の影響を最も受けなかった国」としてアジアの注目を集めた台湾ですが、全く影響がなかったわけではないようです。
アジア経済全体が右肩上がりとなる時期が終わりを告げ、台湾も日本のように「初任給は横ばい」の時代を迎えたことになります。
ワイズコンサルティング 吉本康志