●ベースアップ
図1の通り、昇給には「定期昇給」と「ベースアップ」の2種類の方法があります。今回の調査で日系企業のベースアップを調べたところ64%(73社中47社)の企業がベースアップを実施していることが分かりました。ワイズニュースの1月4日号では「今年は台湾企業でベースアップを実施する意向の企業は18%しかない」と伝えています。台湾企業では多くの企業が既にベースアップを廃止しているのに対し、日系企業ではいまだ多くの企業がベースアップを実施しているようです。
●物価指数と
ベースアップの関係
図2は日系企業のベースアップはどのような要因で決定しているかをまとめたものです。この分析から、ベースアップの主要要因は「消費者物価指数」、「業界傾向」、「公務員の昇給率」を加味してベースアップ率を算出していると答えています。このうち「業界傾向」については既に多くの台湾企業がベースアップを実施していないので、あまり参考になるデーターにはなりません。
今回、日系企業に過去のベースアップ実績を調査しました。しかし、毎年3.5%前後という数字で、本当にこれでベースアップを実施しているのか不思議になりました。そこで、毎年のベースアップ率と消費者物価指数、公務員のベースアップのここ数年のトレンドを一つの図にしてみると、図3の通りになりました。この結果、日系企業のベースアップはいろいろな要因を加味しても、結局毎年3.5%前後になっていることが分かります。
●給与水準と離職率の関係
多くの日系企業で頭を悩ませる経営課題一つに「社員の流動率が高い」ことが挙げられます。離職率の高い原因をお伺いすると「給与水準が低い」とお答えになる方が多いのですが、給与水準を上げると本当に離職率は下がるのでしょうか?
図4は今回の調査で離職率の高い企業20%と離職率の低い企業20%の給与水準を比較したものです。赤の線が離職率の高い企業、青の点線が離職率の低い企業のものです。この分析では「離職率の低い企業の方が給与水準が低い」という驚くべき結果となりました。これは私の想像ですが、「離職率の高い企業は給与水準が問題だと思い、給与水準をどんどん上げてしまったことが、結果に反映したのではないか?」と考えています。
「ハーズバーグの二極化要因説」によると「給与水準」は「衛生要因」に当たり、不満のまま放っておくと将来的に問題を起こす要因ですが、給与水準を一定以上上げても、モチベーションを上げる要因にはなりません。
つまり、離職率が高い企業は「給与水準が低いから」と短絡的な解決策ではなく、モチベーションを下げている要因を探し出すことが必要なのです。もし、モチベーションを下げている要因が見つかり、将来、給与水準をあまり上げなくても離職率が下がることになれば、強力なコスト競争力を手に入れることが可能になります。逆に離職率の高い企業では、経験曲線が下がらないのに加え、どんどん給与水準が上がり、コスト競争力が低くなりかねません。
ワイズコンサルティング 吉本康志
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