就任以来止まらない株価下落と物価上昇に市民の不満が高まっていることを受けて、馬英九総統は9日、「共に苦しいときを乗り越えよう」という台湾住民への呼び掛けを行った。行政院金融監督管理委員会(金管会)も株式市場の見通しには期待が持てるという見解を発表して馬総統を援護したが、10日の株式市場は一時7,000ポイントを割り込み、取引時間中の今年の最安値を更新した。李登輝元総統も「どうしてこんなにだめなのか」と新政権への批判を口にしており、景気悪化に有効な手を打てていない手腕への不満は確実に広がっている。
神妙な表情の馬総統。対中開放によって景気浮揚がどの程度実現するのか注目される(9日=中央社)
馬総統は「台湾経済のファンダメンタルズは悪くない。我々は自信を持つべきだ」と語った上で、物価高で市民の所得が実質的に縮小している現状について、「市民の怒りは受け止めなければならない」と率直に表明した。インフレ問題については、「台湾は自由経済の国家であり、市場メカニズムを尊重しないわけにはいかない。慌てて過度の干渉を行うとマイナスの影響が出かねない」と慎重に対応する考えを示した。そして「全国民が一体となって難関を乗り越えよう」と、今は我慢のときだと訴えた。
馬総統は就任以来、総統のパフォーマンスが目立ち続けた陳水扁前政権を反面教師とする意図もあってか、「行政は行政院が担当するのが本来のあり方」と自ら第一線に立つことを控え、このため台湾メディアから「宅男(引きこもり)」と批判されていた。この日の呼び掛けは、参謀役の部下の提案に従って行ったものだ。
世界最悪の下落幅
「馬上漲(馬総統就任で直ちに上昇する)」が期待された株式市場は、10日付中国時報がブルームバーグの統計として報じたところによると、馬総統の就任した5月20日から7月9日までの下落幅が24.2%で世界最悪だ。
9日は陳樹金管会主任委員が、▽上場企業の売上高や輸出受注は成長しており、ファンダメンダルズは良好▽上場公開企業が積極的に金庫株に取り組んでいる▽外資系証券会社の売り越しが緩和傾向にあり、売りの理由も本社の資金需要に基づいたもので台湾経済の先行きを不安視したためではない──など、台湾株式市場を好感する8項目の理由について記者会見で発表した。進行する株安に一切何の手も打たないと、政権への不信感が高まることを懸念したためとみられる。
邱正雄行政院副院長も同日、「台湾の物価上昇率はアジアの近隣諸国では日本を上回るのみで、政府の物価対策の効果は悪くない」という見解表明を行った。
安値買いが入る
総統と閣僚らの呼び掛けにもかかわらず、10日の台湾株式市場は、前日のニューヨーク市場の大幅安を受けて、一時6,976.6ポイントと7,000ポイントを割り込んで、今年の取引時間中の最安値を更新した。しかし、その後安値買いを企図する買いが入ったことや、邱副院長が改めてインフレ問題への取り組み姿勢を強調したことが好感され、結局終値は前日比27.4ポイント(0.39%)高の7,075.65ポイントで引け、きょうの段階では7,000ポイント台が守られた。
政府のインフレ対策、「効果なし」6割に
本土派の野党政党、台湾団結聯盟(台聯)が9日発表した世論調査によると、馬総統への「満足度」は34.9%で就任以来最低を記録。「不満足度」も51.3%で過半となった。インフレ問題では、「政府の対策は効果がある」という回答は26.4%だった一方、「効果なし」は60.7%に上り、政府の対策は不十分と受け止められていることが分かる。
中国時報によると、台聯の精神的指導者である李前総統は最近、複数の経済専門家と域内経済情勢について討論した際、「馬政権の経済政策は方向を見失っており五里霧中だ。現在の閣僚は多くが私のときと同じなのに、どうしてこんなにだめなのか」と不満を漏らしたという。これに対してはある学者から「指導者の問題だ」という反応が出た。
馬総統は独創的なアイディアに乏しく、台北市長としても国民党主席としても目立った業績を残していないという評価が一般的だが、政権トップとしての資質が問われる状況に早くも直面してしまったようだ。