北京五輪が8日夜、開会式を迎える。中国メディアが台湾を「中国台北」という呼称で報じていたことや、開会式で「Taipei」の「T」ではなく「中華台北」の「中」で入場順を決められることが今後台湾の立場を弱めるという議論もあったが、市民の関心はこうした問題よりも台湾選手の活躍に向けられている。台湾各紙は、排他的ナショナリズムや人権抑圧などさまざまな課題を抱える中国が、五輪を経て国際社会とより協調する方向に変化できるのかに注目している。
北京の選手村に掲揚された台湾のオリンピック旗。アテネ同様、「国旗歌」の演奏が実現するか(中央社)
北京五輪の開幕式には、台湾からは呉伯雄国民党主席ら与党幹部や立法委員、郭台銘鴻海集団董事長ら中国で事業を展開している企業家など計150人が出席する。
国民党は呉主席をはじめ、連戦名誉主席、関中副主席、呉敦義秘書長が7日までに相次いで北京入りした。8日付中国時報によると、胡錦濤中国国家主席は海外から多くの賓客が訪れる中で、呉主席と連名誉主席とは単独で会談し、台湾重視の姿勢を印象づけた。
開会式では、香港・アモイの両特別行政区首長が胡主席の下側に座るのに対し、呉主席らは各国元首と共に上側に座り、台湾側に残る「中国の一部分に矮小化される」懸念を払拭するという。呉主席はまた、13日に行われる野球の台湾の最初の試合であるオランダ戦を、賈慶林・中国人民政治協商会議主席と一緒に観戦し友好ムードを演出する。
こうした動きに対し、野党民進党の蔡英文主席は、「国民党の関係者は五輪を政治の道具にすべきでない。五輪期間に(台湾の)国家主権が大きく損なわれる事態が再度発生すれば、馬政権は今後の選挙や民意調査で洗礼を受けるだろう」と批判した。
「中」の字の順番、2年後に問題化?
台湾が五輪に参加する際の国際オリンピック委員会(IOC)に認められた「チャイニーズタイペイ」の中国語訳について、台湾は「中華台北」を主張する一方、中国メディアは「中国台北」と報じてきた。「中国香港」や「中国マカオ」と同列に報じられることを避けたい台湾政府は中国側に抗議し、7月下旬に改まった経緯がある。
また、台湾はこれまでの五輪の開会式ではアルファベットの「T」の順番で入場していたが、今回は簡体字の画数の少ない国・地域の順番で「中」の字が判断基準になる。
今回は間に中央アフリカ(中非)が入るものの、これに従えば2010年の広州アジア大会では「中国香港」と並び、国際社会に中国の一部分という誤解を与える恐れがある。このため「中」の字による順番を受け入れず開会式をボイコットしようという呼び掛けを、68年メキシコ大会女子80メートルハードルの銅メダリストである紀政氏や、陳全寿・元行政院体育委員会主任委員が行っていた。だが、大きな反響は呼ばなかった。馬英九総統は、IOCが「T」が望ましいという立場を示したのに対し、「中」で問題なしという態度をとった。
五輪期間中に中国が台湾側の面子(メンツ)を失わせる可能性は低いと考えられるが、台湾側も中国の出方に対する懸念を依然持ち続けているとみられる。
「国威発揚思考を避けよ」
台湾各メディアは北京五輪について、「中国が世界的大国に成長する上での一里塚」という見方をしている。
8日付中国時報は、ナチスの国威発揚に使われたベルリン大会、選手村がテロに見舞われた72年のミュンヘン大会と同様の課題を北京五輪が抱えているとし、「中国政府はベルリン的な思考を避け、またミュンヘンの悲劇の再発を防止して、21世紀の中国がどのような文明を展開しているのかを示さなければならない」と注文をつけた。
また、同日付聯合報の社説は、五輪の華やかさと一党統治の中国社会の落差を指摘しつつ、「五輪は中国が強国へのハードルを超えるテストでもある。五輪を経て中国はどのような変化を見せるのか。五輪を成功させるのは簡単なことではないが、中国の大幅な変化はさらに難しい」と論評した。
野球は4位以内が目標
台湾は15競技に80人の選手が参加する。最も注目されているのは5回目の出場となる野球だ。92年のバルセロナ大会では準決勝で日本を下し、銀メダルを獲得している。今回は台湾プロリーグを中心に選手が選ばれ、4位以内が目標だ。日本とは、14日(木)現地時間午後7時から対戦する。
このほか、アテネ大会で金メダルを獲得したテコンドーの朱木炎、昨年テニスの全豪オープン女子ダブルスで準優勝を遂げた詹詠然・荘佳容のペアに対する期待も高い。