「経済成長率６％、１人当たりの平均所得３万米ドル、失業率３％以下」の「633」の早期達成を最大公約に掲げて当選した馬英九総統が、就任わずか100日余りにして公約を放り投げた。馬総統は「再選できれば２期目の最後の１年、2016年に『633』を達成したい」と発言。「馬上好（すぐに良くなる）」を期待して投票した有権者を裏切った形で、野党民進党が「厚顔無恥」と非難したのはもちろん、経済界や国民党寄りのメディアも「不適切な失言」と一斉に批判した。
　
「陳水扁政権が無能なせいで経済が悪化した」は過去８年、国民党の常套句だった。この論理を用いれば、景気の浮揚を図れなければ当然国民党の責任だ（中央社）
　
　馬総統の発言は先日、メキシコの日刊紙「エル・ソル・デ・メヒコ」のマリオ・バスケス・ラーニャ会長に対し行われたもので、３日に総統府のホームページにアップされた。馬総統は「世界経済の現情勢から見て、今後半年であろうと１年であろうと、経済成長率６％を達成できる条件は整わない。今年は4.6％を達成できればよいだろう」と語っている。

「劉行政院長の更迭を」
　
　この発言に対し、野党民進党の蔡煌瑯立法委員らは「（馬総統の当選は）厚顔無恥な票のだまし取りであり、詐欺グループと何ら異ならない。総統として全く失格だ」と強く批判した。　

　劉兆玄行政院長は５月30日の立法院で「４年以内に633の目標を達成できなければ辞任する」と答弁しており、蔡委員らは「馬総統は直ちに劉行政院長を更迭すべきだ」と指摘した。

　野党陣営は最近、馬総統と劉行政院長をリーダーとする現政権を「九流政府」と同じ発音の「九劉政府」と呼んで批判を強めている。
　
　
株式・為替に悪影響
　
　経済界では、全国工業総会（工総）の陳武雄理事長が「馬総統は率直過ぎる。就任100日余りでこういう話をするのは好ましくない」と苦言を呈した。

　また、政治大学外交系の李明教授も「言うのが早過ぎる。株式市場や為替市場に悪影響を与える」と批判した。　

　４日付経済日報は「経済面でも政治面でも失言だ」と論評。「総統が高い目標を掲げてこそ住民を励ますことができる。馬総統に投票した765万人の有権者に冷水を浴びせるもので、『633』を既に過ぎた過去のように扱うのであれば有権者は再び馬総統に投票したいと思うだろうか？」と発言に疑問を投げ掛けた。

　識者やメディアには、馬総統はリーダーとして信頼感を持たれる発言をすべきという論調が目立つ。実際、株式市場が最近３カ月半で約2,900ポイント（約31％）下落したり、７月の景気対策信号が５年１カ月ぶりに後退を示す「青」に落ち込んだり、失業率が過去１年で最悪の4.06％に達するなど、最近は経済指標とマインドの悪化が顕著になっている。こうした中での公約反故の失言はいかにもタイミングが悪く、支持率低下に拍車が掛かりそうだ。