安倍晋三元首相が8日、奈良市で演説中に銃撃されて死去したことを受け、蔡英文・総統は同日、国際社会は重要なリーダーを、台湾は重要な友を失ったと総統府を通じてコメントを発表した。総統府は、安倍元首相は世界で新型コロナウイルスが広がる中、日本政府の台湾へのワクチン供与を後押ししたほか、世界で政治経済情勢が変化する中、自由で開かれたインド太平洋地域を目指し、「台湾有事それは日本有事。すなわち日米同盟の有事だ」と発言するなど、日台関係の発展や台湾海峡の平和と安定に尽力したと追悼した。きょう11日は全ての政府機関や公立学校で半旗を掲揚し、哀悼と感謝の意を表する。中央社電などが伝えた。

蔡・総統は11日、安倍元首相の弔問のため、日本台湾交流協会を訪れた（総統府リリースより）

　蔡・総統は、「ご逝去の報に接し、言葉にならないほどのショックを受けています。安倍先生とはまた台湾でお目にかかれると信じていました」「生前、台湾に実に多くのご支援とご配慮をくださいました」などと日本語でもツイッターを3回投稿。日台は引き続き肩を並べて協力し、民主主義と自由の価値を守っていくと表明した。

　頼清徳・副総統は、2016年の台湾南部地震（台南地震）に続き18年の花蓮地震で安倍元首相が、「台湾の困難に際し、日本としては必要な支援を何でも行いたい」と表明し、「台湾加油　安倍晋三」と毛筆で書いたメッセージを公開したことなどに触れ、日台関係の深化がわれわれの使命だと話した。

　台北駐日経済文化代表処の謝長廷・代表（駐日大使に相当）は、安倍元首相の死は、世界の民主主義陣営の損失であり、台湾にとっても重大な損失だと述べ、日台友好を促進させ、「善の循環」を暴力で途絶えさせないと表明した。

　行政院農業委員会（農委会）の陳吉仲・主任委員や陳其邁・高雄市長は、中国が21年3月に台湾産パイナップルの輸入を停止した際に、安倍元首相が自身のツイッターに台湾産パイナップルを手にした画像を投稿したことについて触れ、哀悼の意を示した。

　日本台湾交流協会の泉裕泰・台北事務所代表は、「台湾有事は日本有事」であると、最初に声をあげたのは、安倍元首相だったと指摘。安倍元首相は台湾の前途を常に気に掛け、国内外で積極的に台湾のために声を上げ続けてきた、台湾にとってかけがえのない、大切な、真の友人だったと記した。どうか天国から、あなたが師と仰いだ李登輝・元総統とともに、激動の中にある日本と台湾を力強くお護りくださいと祈りを捧げた。日本台湾交流協会は、安倍元首相の任期中の17年に従来の「公益財団法人交流協会」から名称変更した。

　関係者によると、安倍元首相の葬儀には、台湾から対日窓口機関、台湾日本関係協会の蘇嘉全・会長と、游錫堃・立法院長が参列するようだ。

101ビルにも追悼メッセージ

　日本台湾交流協会は、11〜17日に弔問記帳を受け付ける。

　日本台湾交流協会の前には9日から、安倍元首相へのメッセージボードが有志により設置され、多くの市民が思いを書き込んだ。日本台湾交流協会は、市民から献花台の設置を希望する声が多数寄せられており、用意を急いでいると説明した。

日本台湾交流協会の前では、夏の日差しの中でメッセージボードに書き込む姿がみられ、既に余白がない状況だ（10日＝中央社）

　台北市信義区の超高層ビル、台北101ビルでは8日夜、「敬悼 安倍首相（安倍元首相を追悼する）」「台湾永遠的朋友（台湾の永遠の友だ）」などのメッセージが壁面に表示された。高雄市の高雄流行音楽センターと愛河（河川）は9日夜、安倍元首相を追悼するため、白くライトアップされた。

台北101ビルは11日まで、「台湾の永遠の友だ」などの追悼メッセージを表示する（9日＝中央社）

地政学リスクに変動も

　安倍元首相は親台湾派として知られる。首相退任後も、昨年12月に、「台湾有事それは日本有事。すなわち日米同盟の有事だ」と発言したのに続き、今年4月には、台湾海峡の有事の際に介入するかを明確にしない「あいまい戦略」をとる米国に対し、もう少し明確にすべきと発言するなど、台湾海峡の平和と安定に関心を寄せていた。

　9日付中国時報は、安倍元首相の死去で、東アジアの地政学リスクが変動すると指摘した。

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