ファウンドリー最大手、台湾積体電路製造（TSMC）は29日の臨時董事会で、研究開発（R＆D）シニア副総経理（シニアバイスプレジデント）の米玉傑氏とオペレーション担当シニア副総経理の秦永沛（ワイピー・チン）氏を、執行副総経理兼共同営運長（COO）に任命することを決定した。きょう1日付で就任した。劉徳音（マーク・リュウ）董事長が6月の株主総会後に引退し、董事長を引き継ぐ予定の魏哲家（シーシー・ウェイ）副董事長兼総裁の右腕となり、研究開発や地政学リスクなどの課題に取り組む。創業者の張忠謀（モリス・チャン、92歳）氏が退任前の12年に、劉氏や魏氏らが共同COOに就任しており、業界では、米氏と秦氏が後継者候補とみられている。1日付経済日報などが報じた。

TSMC共同COOとなった米氏（TSMC提供）

　TSMCは、今後は魏・総裁が共同COOの2人と、人事、財務、法務、経営企画の4つの組織を担当し、その他の組織は共同COOの米氏と秦氏が担当すると説明した。

TSMC共同COOとなった秦氏（TSMC提供）

　業界では、共同COOの米氏と秦氏は魏・総裁を補佐し、地政学リスクや同業との競争、技術や製造の優位性維持などの課題に取り組みつつ、次の世代を育成するとみられている。

米氏、R＆Dのキーパーソン

　米氏は、1994年にTSMCに入社した。相補性金属酸化膜半導体（CMOS）の研究開発で貢献し、90ナノメートル製造プロセスから40ナノ、28ナノ、7ナノ、5ナノ、さらに先進プロセスへと研究開発を先導してきた人物だ。11年に研究開発のシニア副総経理に抜擢された。

　24日に開催された熊本工場の開所式にも出席した。

　業界では、TSMCが今後、立体構造トランジスタ（FinFET、フィンフェット）からゲート・オール・アラウンド（GAA）へと移行するに当たっても中心となる人物とみられている。

　米氏はカリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）電気・コンピューター工学科の博士を取得し、米国で4年間働いた後、台湾に戻ってTSMCに入社した。

秦氏は「エンジニア長」

　一方、秦氏は工業技術研究院（工研院、ITRI）出身で、TSMC設立の87年に創業者の張氏と共に入社した古参で、張氏が「TSMCのエンジニア長」と称する人物だ。工場管理に精通しており、先進プロセスの量産、良品率向上は秦氏無くして成し遂げられないと言われている。業界関係者や従業員には敬意を込めて「秦公」と呼ばれている。

　秦氏は主に先進プロセスと12インチウエハー工場管理を担当しており、今後は台湾と日本の熊本工場、建設中の米国アリゾナ工場、計画中のドイツのドレスデン工場、熊本第2工場なども秦氏が責任者となり、右腕である欧州＆アジアセールス担当の侯永清（クリフ・ホー）シニア副総経理と共に監督・管理するとみられている。

「経営トップの準備万全」

　TSMCは12年に創業者の張氏の後継者候補として、劉氏と魏氏、現在は鴻海科技集団（フォックスコン）の半導体策略長を務める蒋尚義氏の3人を執行副総経理兼共同COOに任命した。13年に蒋氏は退職し、張氏が執行長（CEO）を退任し、劉氏と魏氏が総経理兼共同CEOに昇格した。18年に張氏が董事長を退任し、劉氏が董事長に、魏氏が総裁に就任し、ツートップ体制に移行した。

TSMC董事長に6月就任予定の魏・総裁（右）（陽明交通大学リリースより）

　6月に董事長に就任予定の魏・総裁は29日、国立陽明交通大学の工学と理学の名誉博士号を授与された。張氏は授与式典で、魏・総裁はこれまで総裁として6年間、経験を積み、後継者を育成し、「最も万全に準備したCEOだ」と褒めたたえた。

魏・総裁（右）は、社内で張氏（左）にこんなにほめられたことはないと喜んだ（国立陽明交通大学リリースより）

　魏・総裁は09～12年に事業開発シニア副総経理を担当した。張氏は、魏・総裁に事業開発の経験が足りていないと考え、1万2000人を束ねる立場から、わずか60〜70人の事業開発部門に異動させ、経験を積ませたと説明した。

【セミナー情報です】
在台日系企業の日本人向けワイズ経営塾　経営基本編。経営のフレームワークを8日間で体系的に学べます。3月15日開講。
検索は「3月、ワイズ経営塾」。
【セミナー情報の詳細はこちら】
https://www.ys-consulting.com.tw/seminar/111127.html