中台間の海空運が15日、全面的な直航時代の幕を開けた。海運は国共内戦終結後初めて直航が実現。空運はチャーター便の平日運航、および桃園~上海が最短82分で結ばれるなど所要時間の大幅な短縮化、貨物チャーター便の就航などが実現した。これにより、中国でビジネスを展開する台湾企業や在台日系企業は、物流・移動の利便性向上によって、大幅なコスト低減メリットを享受できるとみられる。
高雄港から天津へ出発する長栄海運の「立敏輪」。まさに歴史的な船出となった(15日=中央社)
今回、最も大きな変化がもたらされたのは海運だ。15日は長栄海運(エバーグリーン・マリン)が午前10時、貨物船「立敏輪」を天津に向けて出航させ、海運直航時代の台湾からの第一便となった。基隆港からも万海航運の福州行きや陽明海運(ヤンミンライン)の上海行きの貨物船が出航した。直航便の台湾の開放港は11港、中国は63港だ。
中台間の海運は、これまで石垣島を経由していたため、時間にして16~27時間、コストにして1便当たり約2万米ドルが余計にかかっていた。直航の実現によって、台湾の海運各社は輸送コストが15~30%、年間12億台湾元(約33億円)の削減が可能になるとみられている。
海外勢との競争の土台整う
陽明の盧峰海董事長は、海運業者にとって直航の最大のメリットは、中国市場で他の海外大手海運会社と互角に競争できる体制が整ったことにあると指摘する。経済誌「今週刊」625号によると、長栄海運や陽明は年間1,300億~1,400億元の売上高のうち、6~7割を中国から欧米に輸送する貨物が占めている。この割合は世界最大手のマースクや3位のCMA CGMも同様だが、CMA CGMが1社で中国全土に60カ所の拠点を設けている一方、台湾各社は規制のため、これまで従業員5人までの事務所を20カ所程度設けているにすぎなかったとされる。
規制の影響で、台湾各社は昨年の中台間の貨物量130万TEU(20フィートコンテナ換算)の4~5割しか取り扱えず、中国の海運会社にリードを許しているという。このため、盧董事長は「公平に競争ができるようになれば、台湾海運会社の集荷能力からみて、売上高は数年以内に2倍以上に拡大する」と期待感を示す。
中国投資を拡大へ
今後、海運各社は中国投資を拡大していく。15日付経済日報によると、長栄海運は天津港でコンテナ埠頭(ふとう)の建設を検討しているほか、今回開設した高雄~華北の貨物便ルートのほか、来年の春節(旧正月)後に高雄~南沙のルートも開設し、初年度は2ルートで10万TEUの貨物取扱増、9億9,000万元の売上増を見込んでいる。
陽明も高雄・基隆から華中、華北への新貨物ルートを開設し、1週間当たりの貨物量は1,000TEU、通年で約5億元の売上増を予想している。また、子会社・好好物流と長江航運集団の合弁による長明国際物流が、重慶に専用埠頭(ふとう)を設ける。中国・招商局集団との提携で、陽明がBOT(建設・運営・譲渡)方式で建設する高雄港洲際コンテナセンター案に招商局集団が出資を計画する一方、陽明も寧波・深圳の埠頭への投資に関心を抱いている。
海運各社は今後中国内陸部の拠点を拡大し、河川物流業者と連携して、内陸部から沿海部、世界市場への貨物輸送に注力していくとみられる。
1日生活圏が実現
航空の中台チャーター便は、15日からこれまでの週末・祭日のみから平日に拡大するとともに、より直線に近いルートの採用によって飛行時間が短くなった。1年を通じて、気軽に上海など中国の都市と往来できるようになり、台湾各メディアは「両岸(中台)1日生活圏が実現」と報じている。中国側の利用空港も拡大し、15日は中華航空(チャイナエアライン)が桃園~広州、桃園~深圳を運航した。
第1週の平日チャーター便は計101便が運航される。価格は週末チャーター便よりも1,000~2,000元程度安く、上海便は約1万6,000~7,000元となる。
コスト競争力向上にプラス
中台間で全面直航が実現した意義について、本誌で「台湾経済 潮流を読む」のコラムを連載中の伊藤信悟・みずほ総研上席主任研究員は、「世界的な景気後退でコスト削減があらゆる産業にとって大きな課題になっている中、コスト競争力を高められるという点で大きなプラスだ」と評価した。ただ、企業のコスト構造全体に占める輸送関連費用の割合から見て、全面直航でビジネスが劇的に変わることはないとした。
また、中国でビジネスを展開するIT(情報技術)などの台湾企業や、台湾子会社を通じて中国投資を行うなど中台双方のメリットを生かしたオペレーションを行っている日系企業などが、最もコスト・時間短縮のメリットを受けると指摘した。
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