「台湾記憶体公司(TMC)はDRAM業界の救世主ではなかった」──。DRAM業界の統合推進役と期待の目で見られていた政府出資のTMCは、宣明智招集人が10日、個別企業の救済や合併は行わないと明言。エルピーダまたはマイクロンの技術によって、来年第4四半期の事業開始を目指す新たなDRAM企業となる方針が示されたことで、業界に驚きと反発が広がった。意外な表明に、「赤字企業の救済を望んでおらず、破綻(はたん)を待って事業を進めるつもりではないか」と真意をめぐって憶測が出ている。11日付工商時報が報じた。
方針をはっきり語る宣招集人だが、11日も力晶半導体がストップ安手前まで売り込まれた。TMC設立表明以来、株式市場からは何一つとして好ましい反応がない(10日=中央社)
「TMCは現在ある6社とは関係ない。彼らの困難な状況は自身で解決すべきだ」。宣招集人の発言は明確だった。今後は3月末までにエルピーダかマイクロンかの技術パートナー選定を終えた上で、第3四半期に正式に設立、来年第4四半期の事業開始で韓国大手と対抗することを目標にするが、自社で新たな工場建設は行わないとした。
合併に反対する理由としては、第一に生産能力が過剰になることを挙げた。また、企業の合併は相互補完性があることが望ましいが、台湾各社は同質性が高く、企業文化の違いの問題もあり、合併を進めてもメリットは小さいと指摘した。
TMCの運営資金については、政府からの出資は300億台湾元(約856億円)で十分という認識で、損失が150億元に達したら事業をやめると説明。一方、民間資金の呼び込みは重要で、そのためには利益を出せる事業計画の立案が必須だと語った。
なお、TMCが合併を推進しない理由について陳昭義・経済部工業局長は、「政府に莫大(ばくだい)な債務を引き受ける力が全くないためだ」と話した。
力晶、民間版統合計画も
宣招集人の発言に対し、救済案を期待していた業界からは、「政府に振り回されている」など、怒りや失望の声が相次いだ。
力晶半導体(PSC)の黄崇仁董事長は、「工場を設けないというDRAMメーカーが、一体何を作るというのか」と皮肉り、来週にもエルピーダの坂本幸雄社長と協議して、民間版の統合計画を提示するいう考えを示した。また、南亜科技の呉嘉昭董事長も「TMCの計画は非常にこっけいだ」と批判した。
DRAM再生に多くの課題
「台湾7番目のDRAMメーカー」を標榜するかのようなTMCの狙いについて同日付経済日報は、「弱体業者の退場による業界の淘汰を待ち、その後市場に入って韓国との最終決戦に入る考え」と分析した。
業界でも同様の観測が出ており、黄PSC董事長は、「DRAMメーカーには従業員、株主、銀行など関係者が多くいる。自然淘汰待ちを考えているとしたら本当に邪悪だ」と強く批判した。
台湾DRAM業界は累計で8,000億元以上の投資を行っており、同時に4,000億元といわれる負債を背負っている。そこに資金わずか300億元でDRAM業界再生の使命を果たそうというTMCは、業務開始が1年半も後というスケジュールも含めて、取り組むべき課題は非常に多いように見受けられる。