自動車大手、裕隆集団は、傘下の自社ブランドメーカー、納智捷汽車(LUXGEN)が中国・杭州で予定していた工場設置計画の見合わせを決めたもようだ。中台の両岸経済協力枠組み協議(ECFA)で、自動車のゼロ関税が来年にも実現すると見込まれるためで、三義工場(苗栗県)で生産しての輸出に切り換える。投資コストを大幅に削減でき、中国市場戦略の柔軟性が高まるため、メリットは大きい。16日付経済日報が報じた。
裕隆集団の当初計画では、杭州の蕭山臨江工業区で、総投資額200億台湾元(約594億円)で納智捷の年産12万台の工場設置を予定していた。中国国務院による最終許可がなかなか下りず焦りも感じていたもようだが、ECFAが来年に締結される見通しになったことで、現地工場設置の切迫性は薄れた。
台湾からの輸出に切り換えた場合、巨額の投資なしに市場の反応を試すことができる。そして、LUXGEN車が消費者から好評だった場合に改めて工場設置を決めても遅くはない。
また、台湾からの輸出の場合、三義工場の稼働率を引き上げられる利点もある。年産能力12万台の同工場は、台湾自動車市場の不振を受けて、ここ2年稼働率がわずか2割にとどまっていたという。自動車業界のある関係者は、「ECFAで自動車分野が第一段階のゼロ関税対象となる場合、最大の恩恵を受けるのは裕隆だ。同社のブランド事業は無限の投資を伴う『大ばくち』から、リスク管理が可能な『小ばくち』へと変化する」と指摘した。
中国メーカーとの競争が試練に
ECFAの自動車分野のゼロ関税について経済日報は、「台湾メーカーにとって短期的にはメリットだが、長期的にはデメリットだ」と論評した。
当面のメリットは、台湾各社が日系を中心とした海外提携企業の技術支援によって、中国への輸出を強化し、中国自動車市場の成長の恩恵にあずかれることだ。台湾区車両工業同業公会の理事長である裕隆汽車の陳国栄総経理は、「台湾市場の50倍規模の、年間販売台数1,000万台の中国市場を新たな市場にできることは圧倒的なメリットだ」と語っている。
一方、長期的なデメリットは、やがては生産コストや技術力で海外メーカーに追い付くとみられる中国自動車メーカーが、コストメリットを武器に台湾市場に攻勢をかけるようになれば、台湾各社は厳しい挑戦にさらされるというものだ。
このため経済日報は、「デメリットをメリットに転化するには、海外大手メーカーの大中華地区における一生産拠点になることを目指すべきで、そうしない限り中国メーカーに取って代わられることは明らかだ」と悲観的な見通しを提示している。
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