台湾に運営本部を設置した多国籍企業の営利事業所得税(法人税)率を15%に引き下げる税制優遇策が産業創新条例案から削除されたことの妥当性をめぐり議論が広がっている。優遇策が実施された場合に適用対象となる宏碁(エイサー)は、「産業界に果たす役割の大きい大企業は優遇されるべき」という立場で、25日は王振堂董事長自らがテレビの討論番組に出演して優遇策導入の見送り反対を強く訴えた。しかし政府は税制の公平性重視から導入しない方針を明言。大手各メディアも政府の方針を支持している。26日付工商時報などが伝えた。
やや分の悪い王振堂エイサー董事長。「税収が5億元減っても大企業にはサプライチェーンがあり、500億元の経済効果をもたらせる」と語る(中央社)
焦点となっているのは、世界の大企業500社に対し法人税率を15%に引き下げるとした同条例30条の取り扱いで、行政院は25日、「外資の誘致要因になるかは必ずしも明確でなく、台湾で該当するのが大企業4社のみで議論の余地が大き過ぎる」として見送り方針を改めて表明した。26日午前には呉敦義行政院長が、「政府は税制の全体的公平性を考えねばならず、特定の大企業のみを優遇するわけにはいかない」と重ねて発言した。15%優遇が行われる場合、台湾企業で対象となるのは、▽鴻海精密工業▽エイサー▽華碩電脳(ASUS)▽広達電脳(クアンタ・コンピューター)──の4社だ。
「大企業を重視できないのか」
これに対し王振堂エイサー董事長は25日、大手ケーブルテレビ局、TVBSの討論番組「2100全民開講」に出演し、「15%という優遇税率はマジックナンバーで、世界有数の企業が台湾への運営本部設置に興味を抱くだろう。政府は産業創新条例で10年後の台湾の産業発展に活路を開くべきだ」と訴えた。
王董事長は「多くの試練を乗り越えて成長した大企業をなぜ重視できないのか」と力説。法人税優遇措置が大企業のみを優遇するものだとの批判については、「政治的な思考で経済問題を決定すべきではない。法人税優遇がない産業創新条例は、中小企業が大企業に成長し、頭一つ抜けたところを首切りするようなものだ」と不満をぶちまけた。
中小企業、従来型産業重視を=自由時報
ただ、大手メディアはいずれも政府方針を支持する姿勢だ。26日付聯合報は社説で、「中型企業3社を合わせれば大企業になり、どの企業も台湾に貢献している。それでいてなぜ税率が異なるのか。大企業優遇を法令で規定すること自体が珍しい発想だ」として、エイサーの姿勢を批判した。
自由時報も「過去10年間、産業高度化促進条例によるハイテク業界への優遇策で、1兆元を超える税収が失われてきた。同条例が期限切れを迎えた今回こそ、事態が立て直されることを望む。大物経営者が投資を撤回すると脅したからといって政府はひるむべきではない」と論評。政府が手助けすべきなのは、競走力の弱い中小企業や従来型産業だと指摘した。
「実質税率20%以下に」=経済部
なお、経済部の黄重球政務次長(次官)は25日、エイサーなど有名ブランドを持つ大企業については、産創条例の付属措置を適用することで、実質税率を20%以下に抑える方針を示した。同社などの反発を抑える狙いがあるとみられる。
黄次長は「今後付属措置を決定する際、ブランド、マーケティングなどを主体とする企業も研究開発(R&D)投資控除の適用範囲に含めていく」と語った。その上で「製造業の研究開発投資控除は認定が容易だが、ブランドやマーケティング主体の企業に投資控除を適用するには、さらに明確な規範が必要だ」と述べ、財政部と詳細を詰めていく考えを明らかにした。