台北県貢寮郷で建設中の第4原子力発電所について、呉敦義行政院長が春節(旧正月)前に台湾電力(台電)に対し、「(中華民国建国100周年の記念日に当たる)来年10月10日までに1号機を商用化(外部への電力供給開始)することが望ましい」と指示していたことが明らかとなった。従来計画より2カ月の前倒しとなり台電は「全力で目標達成を目指す」としているが、環境保護団体などからは「祝賀行事に間に合わせるために工事を急ぎ、稼動後に事故が起きれば誰が責任を取るのか」と批判の声も出ている。6日付経済日報などが報じた。
既に8割完成
行政院の江啓臣報道官は5日、呉行政院長の商用化前倒し発言について、「安全に問題がないという前提の下、省エネルギー、二酸化炭素(CO2)排出量削減、環境と経済発展のバランスなどの原則を考慮した上で、できるだけ早い商用化を目指す考えを示したもの」と説明。10月10日という期日については「『望ましい』としているだけで『必ずこの日でなければならない』という意味ではない」と強調した。 台電によると、第4原発1号機は8割がた完成しており、今年末に核燃料の搬入、来年初旬に試運転を行う予定だが、商用化に当たっては、行政院原子力委員会の安全点検を受けることになる。
1号機の商用化が実現すれば、発電量は135万キロワット(kW)で、年間では100億キロワット時(kWh)に達する見込みで、台電の杜悅元・広報担当は、「台湾の電力使用量が年々増加傾向を示す中、同機の運転開始により、CO2排出量の比較的多い火力発電所などの運休が可能になる」と語った。さらに2号機も合わせると年間1億6,000万トンのCO2排出量を削減することができ、「計画は世界的な温室効果ガス削減の流れに合致する」と強調した。
「前倒しは業績狙い」
しかし一方で、建設への反対意見も根強い。台北大学経済系の王塗発教授は、「台湾では電力は不足しておらず、将来も産業の進化や構造の転換が進めば、それほど多くの電力需要があるとは考えにくい」と指摘。「工事を急ぐのは政府が業績を挙げたいためだ」と批判した。
また、台湾環境保護聯盟の李卓翰秘書長も、第4原発計画には地質、設計、施工過程に依然多くの疑問点が残されており、「無理に運転を開始すべきではない」と批判している。このほか、第4原発の商用化は住民投票で決めるべきとの声も上がっている。
民進党政権下では政治問題に
第4原発の建設計画が初めて提出されたのは1980年で、86年に旧ソ連・チェルノブイリ原発事故が発生したことで一時中断。その後92年に再び着手されたものの、野党民進党などの反対によって計画が遅れ、99年3月になってようやく着工にこぎ着けた。
しかし翌2000年に政権を取った民進党の張俊雄行政院長は、同年10月に工事の停止を発表して大きな政治問題となった。最終的に翌年2月、大法官会議が行政院の建設停止決定過程には重大な瑕疵(かし)があるとの判断を示し、110日の中断を経て同月14日に工事が再開された。
なお、再開当初は第1号機の商用化の目標スケジュールを09年7月としていたが間に合わず、11年12月15日まで延期されていた。工事中断による損失は、一説によると2,200億台湾元(約6,536億円)に上るとされる。