台湾では改名は比較的簡単だが、改姓はなかなか難しい。特に父親の姓から母親の姓に改姓するのは至難の業だ。
夫婦別姓の台湾では、子どもは父親の姓を名乗り、父と子は同姓、母は別姓となるケースが一般的。民法第1059条の規定では、成人の場合は、書面による父母の同意があれば改姓可能だが、同意書がない場合は、その姓によって「不利益」を受ける事実が認められない限り、改姓は出来ない。
母親の姓への改姓を求めるケースは、離婚家庭で母親と暮らす子女に多い。30年前に離婚した屏東在住の張さんは、息子(32)の改姓のため元夫に同意を求めたが、得られず。そこで張さんの息子は、父親が「ドメスティック・バイオレンス(DV)の前科者」であることを理由として、裁判所に改姓を申請した。
ところが、裁判官はDVを「不利益」な理由とは認めず、改姓申請を却下。「父親が殺人や強盗、汚職、薬物使用などの重大な犯罪を犯した場合でない限り、不利益を受けるとはいえない」というのがその理由だった!

こうした状況を受け、自らも改姓経験を持つ蒋孝厳立法委員(父は蒋経国元総統、母は章亜若。05年に「章」姓から改姓)が12日、公聴会を開き、現行法の改正を呼び掛けた。
蒋立法委員の改正案では、「成人した子女は、自分の意思で父か母の姓を選ぶことができる」とし、未成年の子女が改姓する場合の理由を、「不利益」から「最良の利益」へと変更。現行法を不合理だと考えている多くのシングルマザーや婦人団体が、この案を支持している。
一方法務部によると、2009年1月~10年2月における改姓申請件数は1,461件。そのうち差し戻されたのは251件と2割に満たず、当事者が裁判官に対し、元の姓によって受ける不利益を説明することができれば、ほとんどが問題なく改姓できているという。
法務部は、「成人の改姓に関する法規緩和は相続法の基礎を揺るがす」と現行法の改正には反対の立場。しかし、父親が殺人などの凶悪犯でない限り改姓が認められないという現状は、あまりにも説得力に欠けるのではないだろうか。
婦人団体「婦女新知基金会」は12日、記者会見を開き「母親の姓は『仕方のない選択肢』ではない」と、法改正への支持を訴えた(12日=中央社)