従業員の連続自殺が社会的関心を集めている鴻海科技集団(フォックスコン)傘下の携帯電話受託生産メーカー、富士康国際(FIH)の程天縦副総裁は26日、「外電の翻訳の問題で顧客に誤解が生じたこともあったが解決した。受注に影響は出ない」と表明した。富士康の管理の在り方を問題視する大手メディアの報道が相次ぐ一方、従業員らからは「自殺は個人的問題。会社とは関係ない」との声が上がっている。なお自殺の連鎖は依然やまず、同日今年12件目の飛び降りが発生した。27日付電子時報が報じた。
郭台銘董事長は前夜一睡もせず深圳入りし、メディアの厳しい追及に対応した(26日=中央社)
従業員の連続自殺問題に、鴻海集団に生産を委託している海外大手メーカーは、ブランドイメージを重視する立場から大きな関心を寄せている。
27日付工商時報がブルームバーグの報道を引用して伝えたところによると、アップルの広報担当、スティーブ・ダウリング氏は「富士康の同問題への対応策を、専門の調査チームを編成して評価に当たっている。また富士康の経営陣と直接連絡を取り合っている」と明らかにした。アップルは2006年、富士康が児童を働かせており超過勤務との関連性が高いとの風聞が出た際にも現地に調査に赴き、従業員が平均35%の超過勤務を行っていること、および従業員宿舎にプライバシーが存在しないことを指摘したという。なお当時、児童就労と従業員虐待などの問題は見つからなかった。
また、ヒューレット・パッカードとデルも26日、連続自殺問題で調査を行うと表明した。
「管理体制に直接関係なし」
一方、程富士康副総裁は「現段階で顧客から批判が続出しているということはない」と語った。程副総裁の言う「誤解」とは、郭台銘鴻海集団董事長が自殺者の冥福を祈るため五台山(山西省)の高僧を招いて法要を行ったことを外電が秘密儀式のように伝えたというもので、その時点からさらに4人の自殺者が出てはいる。
しかし程副総裁は「富士康と顧客メーカーは、製品の設計や研究開発(R&D)の段階から密接な関係を持つ。連続自殺と富士康の管理体制に直接の関係はなく、受注に影響が生じることはあり得ない」と強調した。
就業環境に評価の声
郭董事長は26日「搾取工場」の批判を打ち消すべく、台湾および海外メディアに富士康深圳工場の取材を許可し、約300人の記者が同社のマザーボードの生産ラインや従業員宿舎、食堂などを見て回った。
この際、湖南省出身の従業員が「なぜメディアはみな富士康を攻撃するのか。富士康がなければどれだけ多くの家庭が失業にさらされるのか分かっているのか」との取材陣への問い掛けがあった。「小学校しか出ていないのに5年間も安定した仕事を与えてくれ、郭董事長に心からお礼を言いたい」と話す従業員もいた。
さらに、多くの従業員から富士康の各種福利更生は、深圳の他の製造企業と比べて良いとの声も相次いだ。自殺者が続出している現状については「個人的な問題が原因」との見方だ。
27日付蘋果日報によると、富士康の末端従業員の月給は910~1,050人民元(約1万2,000~1万3,800円)で、深圳市の最低賃金900~1,000元を上回り、残業代は月間1,600~2,500元に達するという。残業は深圳市政府が100時間までは黙認している状況の下、60~100時間で1週間に1日は休めるようだ。
死者10人に
郭董事長の必死の火消しにもかかわらず26日深夜、今年12件目の飛び降り自殺が起きた。死者は甘粛省出身の23歳の男性で、昨年6月から富士康で働いていた。これで今年の自殺者は10人(重傷2人)となった。
中央研究院生物医科学研究所の鄭泰安研究院は、連続自殺の要因として連鎖反応を挙げ、メディアの大量報道の影響、および工場と宿舎という密閉された空間の中で他人の行動に影響されやすい心理状態になる弊害を指摘した。
鴻海集団にとって現在最も重要なのは、自殺の連鎖を食い止めて外部の懸念を払拭(ふっしょく)することであるのは言うまでもない。
【表】