高雄初で全土でも台北に次いで２番目となる都市交通システム（ＭＲＴ）の、紅線が９日午後正式に開通した。紅線は高雄国際空港、高速鉄道左営駅、台湾鉄路（台鉄）高雄駅の各大型交通拠点、大型百貨店が集中する最大商業エリアの三多商圏などを結ぶ、高雄の南北の大動脈となることが期待されている。開通を記念して、４月６日まで無料開放される。


高雄ＭＲＴは緑色を基調にしている。車体一両は全長21.9メートル、幅3.1メートル、高さ3.6メートルと小型の印象だ（９日＝ＹＳＮ）

午後には入場制限も

　９日はＭＲＴを利用しようという大勢の市民が各駅に押し掛けた。三多商圏駅では、午後１時前に小港（高雄市小港区）発、橋頭（高雄県橋頭鎮）行きの一番電車がホームに滑り込んだ。家族連れや友人同士で来た乗客たちは、乗り込む前後にデジタルカメラで記念写真を撮ったりしていた。

　電車が左営を過ぎて地下から地上に出ると、ほぼ満員の乗客から一斉に歓声が上がり、初めて見るＭＲＴの車窓の光景を楽しんでいた。友人３人と乗りに来た高雄科技大学の大学生、陳佩玉さん（20）は、「これからはバイクを使うことが減るかも。高雄は暑いし、ＭＲＴはよく使われるようになると思う」と話していた。　

　午後３時を過ぎると乗客はさらに増え、市中心部の各駅では入場制限を実施した。中央公園駅では、係員が「また、別の日に改めて来ましょう」と呼び掛ける一幕もあった。高雄捷運公司によると、９日は約20万人の利用があった。来月６日までは無料で、７日以降３カ月間は全線一律12元のサービス運賃で利用できる。

搭乗を待たされる乗客たち。三多商圏駅で
（９日＝ＹＳＮ）

24駅を45分で

　ＭＲＴ紅線は小港を起点に、高雄国際空港、全土最大のショッピングセンターである統一夢時代購物中心に近い獅甲、三多商圏、美麗島（大港埔円環）、高雄駅、左営、来年開催されるワールドゲームズ会場に近い世運、楠梓加工区を結び、終点の南岡山まで全線24駅の28.3キロ。所要時間は約45分だ。全線の約75％が地下を、25％が地上を走行する。初乗り20元で、全区間を搭乗した場合60元となる。
　
　９日の開通時点では、北端の橋頭～南岡山が工事の遅れで完成しておらず、この区間の開通は今年10月となる。また、建設中の西子湾（高雄市鼓山区）～大寮（高雄県大寮郷）の橘線との乗換駅である美麗島も完成が間に合わず、供用は８月からとなる。きょう10日からは午前６時から午後11時まで運行し、１日当たりの予想利用者は紅線のみで延べ10万人、橘線開通後は延べ25万人に拡大すると予想されている。

　高雄ＭＲＴと台北ＭＲＴの最大の違いは、高雄では建設・運営コストを抑えるためにＢＯＴ（建設、運営、譲渡）方式が採られたことだ。建設費として政府が1,508億8,900万台湾元（約5,056億円）、中国鋼鉄や独シーメンスを中心とする民間の高雄捷運公司が304億9,000万元を出資した。高雄捷運公司による運営期間は今年から30年で、その後は高雄市政府に引き渡されることになる。

選挙直前の駆け込み開通？

　ＭＲＴの開通までの道のりは、高雄港に近い橘線の工事現場などで崩落事故が相次ぐなど、平坦ではなかった。特に2005年８月、ＭＲＴ工事に従事するタイ人が待遇への不満から起こした騒乱事件は、これをきっかけに工事入札をめぐる度重なる不正・収賄が明るみとなり、陳菊行政院労工委員会主任委員（当時、現高雄市長）、陳其邁高雄市代理市長、陳哲雄国策顧問（元総統府吹く秘書長）らが相次いで辞任する一大スキャンダルに発展し、陳水扁政権の信用失墜の端緒となった。

　なお、美麗島駅などが未完成のまま総統選挙前に開通に踏み切ったことに対し、高雄ＭＲＴを謝長廷候補（前高雄市長）の功績としてアピールしたい民進党政権の思惑があるという指摘もある。

特色ある駅デザイン

　高雄ＭＲＴの特徴の一つに、意匠を凝らした駅のデザインや公共芸術がある。これは、ＭＲＴを単なる輸送機関としてではなく、文化・観光面での高い付加価値を持つ地域のランドマークとしての役割を担わせる目的がある。

　中央公園の大型アーケードは、英国の著名な建築家、リチャード・ロジャース氏の設計による木の葉が飛ぶ様をイメージしたもので、風に乗って飛翔する高雄を表現している。

中央公園駅。大型アーケードの下の階段に沿って水が流れ、清涼感を誘う（９日＝ＹＳＮ）