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鴻海がシャープ買収契約を延期、財務調査急ぐ


ニュース 電子 作成日:2016年2月26日_記事番号:T00062209

鴻海がシャープ買収契約を延期、財務調査急ぐ

 経営再建中のシャープは25日、鴻海精密工業による買収を受け入れると発表したが、鴻海は同日、シャープから24日に受け取った重要文書の内容を精査する必要があり、双方が合意するまで買収に向けた契約を一時延期すると表明した。いったん水入りとなった形だが、最終的に調印となれば、鴻海はLTPS(低温ポリシリコン)パネルの生産規模を大幅に拡大し、シャープを通じてアップルのパネル受注を手中に収めるとみられる。中国との競争でも強みを増すといった、台湾パネル業界全体にとってのプラス効果も指摘されている。26日付経済日報などが報じた。


シャープの高橋興三社長は、鴻海による買収受け入れ決議は全会一致だったと明かした(25日=中央社)

 シャープは25日の取締役会で、鴻海による再建案を受け入れることを決定。具体的には、鴻海がグループでシャープの4,890億円の増資を引き受け、シャープの株式66%を取得して買収する。出資額は台湾企業による海外投資額として過去最多で、台湾企業による初の日本大手パネルメーカー買収となる。

 両社はもともと2月中の契約調印を予定していたが、問題の文書に記載されたシャープの債務リスクが鴻海の従来予想を2,500億円上回り、鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長が財務調査を急ぐよう社内に指示を出したとされる。シャープが債務額を正しく伝えていなかったのか、リスクを隠していたのか、鴻海の財務調査に落ち度があったのかは不明だ。

 鴻海は「一刻も早く文書の内容を精査し、今回の取引を円満に成立させたい」と強調した。

 市場関係者は、鴻海は予想外の事実判明を受け、契約を引き延ばすことで時間を稼ぎ、状況を完全に把握してからシャープとの交渉を続ける考えだと分析した。

 聯合報は今後のシナリオについて、▽偶発債務は存在しないことが分かり、鴻海が慎重に契約内容を見極めた上で調印に踏み切る▽シャープの偶発債務の存在が明らかとなるが、鴻海は自社の財務リスク増大も覚悟の上で調印する▽鴻海がシャープ買収を中止する──の3通りと指摘した。

 なお、鴻海による買収決定発表後、シャープの株価は、最終調印が行われず不透明感が出たこと、第三者割当増資に伴う希薄化が嫌気され、26日の終値は前日比11.41%安の132円まで下落した。

LTPSパネル世界首位へ

 市場調査会社、ウィッツビュー・テクノロジーの邱宇彬シニア研究協理によると、シャープは大型パネルの世界シェアが20%、LTPSパネルの世界シェアは18%だ。鴻海はシャープ買収により、LTPSパネルで世界3位以内に浮上する。シャープの技術に▽鴻海傘下の群創光電(イノラックス)が高雄・路竹工場で第2四半期に量産する第6世代LTPSパネルライン▽中国の成都市と鄭州市で2018年に量産予定の第6世代LTPS工場各1基──の生産能力を加えると、鴻海はLTPSパネルで世界首位にまい進でき、アップル製品向け受注競争でサムスン電子やLGディスプレイ(LGD)などに勝てると期待されている。

 業界アナリストによると、シャープはアップルにパネルの30%を供給しており、スマートフォン「iPhone」、タブレット端末「iPad」の年間生産量合計2億6,500万台、1台当たりのパネル・タッチパネルモジュール価格1,300〜1,500台湾元(約4,400〜5,100円)で計算すると、鴻海は間接的にアップルのパネル受注1,000億元以上を手にすることになる。

5年間は中国の脅威回避

 また、アップルは来年以降に発売するiPhoneのディスプレイに有機発光ダイオード(OLED)パネルを採用する可能性が指摘されており、サムスンとLGDを上回るIGZO(酸化物半導体、イグゾー)技術を持つシャープを取り込むことで、鴻海はiPhone最大の組み立てメーカーとしてだけでなく、OLEDパネル供給の面からもアップルとの関係を強化できると予想されている。

 邱シニア研究協理は、鴻海のシャープ買収により、台湾のパネル産業は少なくとも5年間は中国の「紅色供給網(レッドサプライチェーン)」の脅威を回避できると予想した。

シャープ再建に導けるか

 シャープは今回、▽経営の独立性と従業員の雇用維持▽シャープのブランド価値維持・向上▽中核技術の流出防止──などの面で鴻海から確約を得られたとして、買収を受け入れた。最終調印となった場合、鴻海がこれらの確約を守りながらシャープを再建できるのか、またはシャープが鴻海の財務を圧迫する重荷となるのか、郭董事長の手腕に注目が集まる。