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『看見台湾』斉柏林監督がヘリ墜落死、環境意識向上に多大な貢献


ニュース 社会 作成日:2017年6月12日_記事番号:T00071030

『看見台湾』斉柏林監督がヘリ墜落死、環境意識向上に多大な貢献

 台湾各地の風景を空撮し、環境意識の向上に大きく貢献したドキュメンタリー映画『看見台湾』(2013年、邦題・天空からの招待状)の監督、斉柏林氏(52)が10日、続編『看見台湾2』の下見のため花蓮県豊浜郷の上空をヘリコプターで飛行していた際、ヘリが墜落して死亡した。2日前に『看見台湾2』の制作を発表したばかりで驚きと悲しみが広がるとともに、台湾にとって貴重な人材を失ったとの哀悼の声が各界から寄せられている。

/date/2017/06/12/00movie_2.jpg『看見台湾2』を発表した際の斉監督。最も好きな歌は日本の「気球に乗ってどこまでも」で、その歌詞どおり大空のロマンを追い求めた人生だった(中央社)

 台湾各紙によると、斉監督は同日午前6時過ぎに助手の男性(25)と共に楓港(屏東県枋山郷)を離陸、墾丁(屏東県恒春鎮)、池上(台東県池上郷)を経て花蓮県南部に入った。

 目撃者によると、ヘリは放物線を描くように落下して、しばらくして黒煙が上がるのが見えた。飛行中から黒煙を出して、付近の砂州に着陸しようとしたもののうまくいかず、墜落して大きな爆発音が聞こえたとの目撃談もある。通報を受けた消防局員が現場に駆け付けたところ、ヘリは大破しており、黒焦げの遺体3体が見つかり、斉監督と助手、および操縦士(52)の3人と断定された。

/date/2017/06/12/00heri_2.jpg墜落した凌天航空(エメラルド・パシフィック・エアラインズ)のヘリコプター。同社は1994年の設立以来、今回を含め計5回の事故を起こし8人が亡くなっている(10日=中央社)

 花蓮地検と飛航安全調査委員会(飛安会)の調べによると、遺体は左側の損傷が激しく、ヘリは左に傾きながら墜落した可能性がある。

環境行政も動かす

 『看見台湾』は各地の美しい風景を紹介する一方、高地の乱開発や工業用水による河川汚染、ゴミの不法投棄など深刻な環境問題を描き出した。全編空撮というそれまで台湾になかったインパクトある映像表現は市民の環境意識を刺激し、映画に登場した南投県山間の違法民宿に取り締まりのメスが入ったほか、高雄市内の河川に汚染水を流した半導体パッケージング・テスティング(封止・検査)最大手、日月光半導体製造(ASE)が処分を受けた。また、水質汚染への厳罰化や、山岳道路の新規整備見合わせが決まるなど、環境行政も動かした。

 斉監督は交通部台湾区国道新建工程局に務めていた元公務員で、当時は高速道路の建設過程を空撮する業務を担当していた。各地の空撮を通じて環境汚染の深刻さを認識し、ドキュメンタリー映画で問題を訴えることを決意。あと3年勤めれば得られる数百万台湾元の退職金をものともせず、私財を投じて制作に入った。そして4年間の辛苦の末、出来上がった『看見台湾』は高い評価を受け、台湾のドキュメンタリー映画として過去最高の興業収入2億2,000万元(約8億円)を記録。台湾のアカデミー賞「金馬奨」の最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した。日本でも14年12月に公開された。

台北101、追悼の点灯

 映画が感動を呼んだのは斉監督の台湾への強い愛情が下地になっていたためだ。蔡英文総統は「斉監督の作品は私たちに台湾の美しさを見せてくれ、多くの人に国土保全への参加を促した。死去は台湾にとって極めて大きな損失だ」との談話を発表。映画界をはじめ各界からも哀悼の意が相次いでいる。

/date/2017/06/12/00101_2.jpg台北の夜空に『看見台湾』の文字がくっきりと照らされた(11日=中央社)

 台北101ビルは11日、ビルの外壁に「看見台湾 永遠的斉柏林 Green On」の文字を映し出し、その功績をしのんだ。

「続編の完成を」

 斉監督の事故死は続編制作の発表直後で、それだけに残念な思いがより募った。制作チームに対しては、故人の意志を継いで『看見台湾2』を完成させてほしいという声が寄せられている。

 『看見台湾』に資金援助をした台達電子工業(デルタ・エレクトロニクス)の鄭崇華名誉董事長は、斉監督に哀悼の意を示すとともに、続編への支援を表明した。ただ、空撮は高い専門能力が必要なため斉監督が自ら担当し、編集や音楽などだけを別の業界人に発注していたと指摘し、空撮の担い手の代わりを見つけるのは困難と語った。