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新南向政策に暗雲、一帯一路が障害に


ニュース その他分野 作成日:2017年8月24日_記事番号:T00072454

新南向政策に暗雲、一帯一路が障害に

 蔡英文政権が東南アジアやインドとの関係強化を目指す「新南向政策」は、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」とターゲットが重複し、その推進が阻まれるとの見方が出ている。このほど、かつて巨額横領・脱税事件を起こして台湾から中国に逃亡した実業家、陳由豪氏が、3,690億米ドルもの資金を投じて、フィリピンにセメント、石化プラントや空港、港湾を擁する同国最大規模の経済開発区と同国で最も高いビルを建設する計画が明らかとなった。一帯一路の一環とみられている。このまま海外での投資合戦が続けば、台湾は資金力が桁違いの中国に太刀打ちできず、新南向政策で成果を出すのは困難となる。24日付中国時報などが報じた。

/date/2017/08/24/00top_2.jpgフィリピン経済特区庁(PEZA)のチャリト・プラザ長官(中)のフェイスブック(FB)に、陳由豪氏(左2)の訪問が投稿されている(23日=中央社)

 フィリピンメディアの報道によると、陳由豪氏は先月初旬、マニラの北にあるパンガシナン州に3,000ヘクタールの経済開発区を構築するほか、120億ペソ(約255億円)を投じてマニラに85階建てIT(情報技術)ビルを建設する計画を当局に提出した。

 陳由豪氏の投資規模は、鴻海精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長が米国ウイスコンシン州に投資する100億米ドルの36倍に上る。

資金の出所に疑問

 陳由豪氏は台南出身で、台湾でかつて紡織、石化、不動産などを手掛けた東帝士集団(トンテックスグループ)を台湾10大企業グループにまで成長させたが、2001年に東帝士集団を解散し、債務600億台湾元(約2,200億円)余りを残して中国に逃亡した人物だ。台湾では債権偽造、脱税などで起訴され、指名手配が続いている。一方、中国では03年に中国籍を取得し、福建省アモイに設立した石化メーカー、翔鷺騰龍集団の事業を拡大してきたものの、13年、15年と爆発事故を起こし、債務危機に陥っているとされる。

 駐フィリピン代表処は23日、陳由豪氏は指名手配犯であり、フィリピン投資は経済上も法律上もリスクが高く、フィリピンの名誉と信頼に関わるとの声明を発表した。林松煥代表は同日、先月に陳由豪氏の身柄引き渡しを求めたが、フィリピン当局から陳由豪氏は中国籍との理由で引き渡しを拒否されたと語った。

 台湾の石化業界からは、現地の銀行は翔鷺騰龍集団に対する融資を打ち切っており、中国政府が裏で絡んでいない限り、11兆台湾元もの資金を準備できるはずがないとの声が出ている。

一帯一路は「最大の武器」

 台湾の元国防部副部長の林中斌氏は同日、中国が台湾を統一する手段は、軍事力より経済力の方がコストが低く、一帯一路は最大の武器であり、フィリピンは中国の持ち駒だと述べた。

 上海社会科学院台湾研究中心の盛九元主任は、「両岸(中台)の政府が『1992年の共通認識(92共識)』を政治的基礎にできれば、新南向政策は一帯一路と協力し合えるが、そうでなければ数多くの困難に直面する」と述べた。新南向政策は、現地との経済協力を発展させるものだが、両岸関係が停滞している限り、自由貿易協定(FTA)締結などの可能性はないと指摘した。

 中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)が管轄するサイト「中国台湾網」には先日、中国が主導する一帯一路に全世界が注目しているが、台湾だけが新南向政策で一帯一路に対抗しているとの論評が掲載された。台湾当局がどんなに働き掛けても、新南向政策がターゲットとする国々は中国商機にあずかることを望んでおり、一つの中国の原則を堅持しているので、台湾は中国という巨大市場の商機を失うばかりか、国際社会で孤立する一方だと論じた。