ワイズコンサルティング・グループ

記事番号：T00111949

　電気自動車（EV）や先進運転支援システム（ADAS）、自動運転車の需要増により、車載用半導体の世界売上高は2030年に1450億米ドルに上り、22～30年の年平均成長率（CAGR）は約11％となる見通しだ。自動車のスマート化に伴い、より複雑な機能に対応できるデータ処理能力が求められようになり、車載用半導体はマイクロコントローラー（MCU）からシステムオンチップ（SoC）にシフトしていくと予想されている。

ADAS向けで32ビットMCUの需要増
　車載用MCUには安定性、信頼性、低消費電力性が求められる。現在、車載用MCU市場は大手IDM（垂直統合型の半導体メーカー）の▽NXPセミコンダクターズ、▽マイクロチップ・テクノロジー、▽ルネサスエレクトロニクス、▽STマイクロエレクトロニクス、▽インフィニオン・テクノロジーズの5社が合計でシェア70％以上を握っている。各社ともADAS向けMCUの開発に注力している。
　車載用MCUは主にデータの処理、計算を行うもので、自動車の電子制御ユニット（ECU）はMCUによって機能する。MCUはビット数に応じて主に8ビット、16ビット、32ビットの3種類に大別できる。ビット数が大きいほどデータ処理能力が高く、内蔵するメモリーの容量が大きいため、より複雑な車両制御が可能だ。
　車両の安全性に関する規制が世界的に強化される中、新車ではADASの標準装備が進んでいる。ADAS向けでは信頼性もデータ処理能力も高い32ビットMCUの需要が強く、緊急ブレーキや前方衝突予測警報（FCW）などのADAS機能を実現するために独コンチネンタルが開発したレーダーモジュール「ARS4-B」には、NXPの32ビットMCUが採用されている。

エヌビディア・クアルコムがADAS・自動運転向けSoC
　ADASの分野にはNXPやルネサスのような車載用半導体大手のほか、後発組の参入も相次いでいる。グラフィックスプロセッサー（GPU）大手の米エヌビディアは30TOPSの演算処理性能でアダプティブクルーズコントロール（車間距離制御装置、ACC）などのADAS機能を実現するSoC「Xavier（エグゼビア）」を開発した。また、254TOPSの演算処理性能で運転モニタリングシステムや車載インフォテインメント（情報・娯楽）システム（IVI）などをサポートするエヌビディアの自動運転車向けSoC「Orin（オリン）」は、メルセデス・ベンツの自動運転レベル3（特定条件下の自動化）の量産車に採用されている。
　半導体大手、米クアルコムは700TOPSの演算処理性能でカメラやレーダーなど20種類以上のセンサーに対応するSoCが米ゼネラルモーターズ（GM）のADASに採用された。クアルコムは自動運転システム向けの開発も進めている。
　エヌビディアとクアルコムは24～25年に演算処理性能2000TOPSの車載用SoCの量産を開始する予定で、両社とも自動運転システムと自動車用デジタルコックピット（スマートコックピット、eコックピット）の両方の需要に対応できるとうたう。両社は自社でのソフトウエア開発を望む自動車メーカー向けにソフトウエア開発キット（SDK）も提供している。

台湾のIC設計会社も車載用強化
　台湾のIC設計会社の多くもADASや自動車用デジタルコックピット向けの需要を取り込むため、▽BSM（ブラインドスポットモニタリング）、▽パーキング（駐車）センサー、▽大型ディスプレイ搭載のデジタルコックピットに対応した車載用半導体の開発も強化している。
　IC設計最大手、聯発科技（メディアテック）は、第5世代移動通信（5G）向け技術を生かしたIoV向け半導体の分野で自動車メーカーと提携している。また、▽IoV、▽コックピット、▽自動運転など向けの包括的なソリューションを提供する車載用プラットフォーム「Dimensity Auto」も発表している。
　また、これまで車載インフォテインメント（情報・娯楽）システム用半導体に注力してきた凌陽科技（サンプラス・テクノロジー）は、BSMなどのADAS機能に対応した製品の開発を強化しており、最新の車載用SoCが日本、中国の自動車メーカーに採用された。