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【ワイズリサーチ】EUの中国製ファスナーに対する
反ダンピング課税による台湾への影響


リサーチ 経営 台湾事情 作成日:2015年6月11日

機械業界 金属

【ワイズリサーチ】EUの中国製ファスナーに対する
反ダンピング課税による台湾への影響

記事番号:T00062856

2015年3月27日、欧州連合(EU)は中国製のカーボンスチールファスナー(Certain Iron or Steel Fasteners)に対するダンピング関税についての再審理で、課税を取り消した場合、EU加盟国の産業に損害を与えるとして5年間の課税継続を最終決定した。ここではEUの決定が台湾のファスナー産業にどのような影響を及ぼすかについて考察する。

EUによる反ダンピング課税の流れ

 現在、中国製ファスナーに対しEU、米国、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、ロシアの各国が自国産業保護を目的として反ダンピング関税を課している。特にEUは2008年、中国から輸入されるねじなどに対し85%の反ダンピング関税を課した。
 EUの反ダンピング課税に対し中国政府は世界貿易機関(WTO)に提訴を行い、11年7月にEUが協定に違反しているとの判決を勝ち取った。これを受けてEUは2012年10月より関税率を74.1%以下へと引き下げた。

 今回、EUが反ダンピング課税の継続を決定したことに対しても中国は中国は再度、課税の完全な取り消しを求め、WTOに提訴しており、紛争処理小委員会(パネル)が今年8月までに判決を下す見通しとなっている。

中国ファスナー産業の現状

 中国は世界一のファスナー(締め具・留め具)生産量および輸出量を誇る。しかし同国では長期にわたり、低品質製品の生産に対する重複した投資が行われた結果、産業構造がいびつとなり、低品質製品の生産過剰という事態を引き起こした。現在同国で生産される製品は強度区分「8.8」以下の汎用製品が約50%を占め、輸出量は多いものの単価は低いというのが実態となっている。一方で自動車、インフラ建設、航空・宇宙、工作機械、軍事といった分野で使用される高強度な特殊ファスナーは輸入に頼らざるをえない状況で、こういった不均衡が同国ファスナー産業最大の問題となっている。

 なお2008年にEUが中国製ファスナーに反ダンピング関税を課した後、中国からEUへの同製品輸出は従来の117万トンから約40万トンに減少しており、市場シェアも26%から0.5%までし縮小した。2014年に中国から欧州へ輸出されたファスナーは約50万トンで、輸出額は約282億台湾元となったが、欧州から中国へ輸入されるファスナー(主に高強度製品)は約350億台湾元となっており、中国の対EUファスナー貿易は赤字に陥っている。

EUのダンピング課税による台湾への影響

 中国製品に高い関税率が課せられたことに伴い、EUでは台湾製およびベトナムなど東南アジア製の輸入に切り替えが進み、特に台湾のファスナーメーカーは最大の受益者となった。現在、EUにとって台湾は最大のファスナー輸入相手国となっており、市場シェアは30%に拡大している。なお2014年の台湾からEUへのファスナー輸出量は56万トンとなっており、2010年〜14年の複合成長率は7%に達している。

 図1では、2008年にEUが中国からのカーボンスチールファスナー輸入に反ダンピング関税を課した後、中台の同地域への輸出額が逆転した状況が見て取れる。また輸出量も最近4年間は台湾が中国を上回る状態が続いている。さらに輸出額は増加傾向にあり、これは台湾から輸出される製品の高付加価値化が進んでいることを示し、台湾製がEU内での地位を確固たるものとしている状況がうかがえる。

 なお、EUによる反ダンピング課税を回避するため、一部の中国メーカーはマレーシアやフィリピン経由での輸出を試みた。フィリピンメーカーについては事実を示す証拠がなかったことから処分を免れたものの、中国メーカーと提携するマレーシアメーカーは課税の回避に協力したとして74.1%の関税率を課せられることとなった。
 台湾メーカーに対しても中国メーカーに協力しているとの疑念が持たれているが、台湾政府はマレーシアの二の舞いとならぬよう、2014年7月21日よりEU向けファスナー輸出の認可における原産地証明審査を厳格化し、疑念の払拭(ふっしょく)に努めている。

まとめ

 EUが中国からのファスナー輸入に反ダンピング関税を課したことで台湾のファスナー産業は最大の恩恵を受けた。しかし、長期的に見て世界のファスナー業界で分業化が進むとみられる中、EUにおいて中国製の低品質製品は一定の需要を保つとみられる。こういった中、台湾のファスナーメーカーは、EUではサプライヤーと長期的なパートナー関係を構築する傾向にあることを考慮し、品質や納期において信用度を高めるほか、製品のレベルアップや差別化により、EU顧客が台湾製と中国製を同レベルの製品と認識しなくなるよう努力すべきと考えられる。そうすることで、今後、EUが中国製に対し反ダンピング関税を解除した場場合も継続して安定したサプライヤーとしての地位を保つことが可能となると言える。

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